この記事をご覧の方の中には、「従業員がカスハラの被害を受けることがあるが、社内で十分な対策が進んでいない」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
今回は、企業におけるカスハラ対策の基本的な考え方と、具体的な対応策について解説します。対応にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
カスタマーハラスメント(以下:カスハラ)とは、顧客や取引先による過剰な要求や不当な言動のことを指します。近年、各所で増加しており、急増するハラスメントの一種として社会的な関心を集めています。
こうしたカスハラ行為は、日常業務に支障をきたすのみならず、繰り返されることで従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を与えるケースもあります。中には、刑事罰・民事罰の対象となりうる暴言・暴力行為にまで発展する事例もあり、安全・安心な就業環境の確保という観点からも、企業にとって無視できないリスクとなっています。
2025年4月現在、カスハラに特化した法律は制定されていません。しかし、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全般への対応を強化する内容を盛り込んだ「労働施策総合推進法等の一部改正法案」が2025年3月に閣議決定され、国会にて審議中です。
また、東京都や北海道をはじめとする複数の自治体において、2025年4月より「カスタマーハラスメント防止条例」が施行されるなど、自治体単位での対応も進んでいます。
基礎自治体としてはじめてカスハラ防止条例を施行した三重県桑名市では、行政からの警告に従わない場合に、行為者の氏名や住所を市長が公表できる制裁規定が設けられており、全国的に見ても厳しい対応が取られています。
今後、労働施策総合推進法が改正されれば、事業主にはカスハラへ防止措置を講じる努力義務が課されることが想定されるため、企業としても早期に体制を整え、実効性のある対策を講じておくことが求められる状況となっています。
カスハラに該当するおそれのある行為には、以下のようなものが挙げられます。
たとえば、クライアントからの言動であれば、言葉尻をとらえる揚げ足取りや、正当な理由のない訪問・不法侵入、従業員へのつきまといといった行為も、カスハラとみなされる可能性があります。
また、「企業(担当者)の対応が悪い」としてSNS上で名指しで批判する、いわゆる“晒し行為”も、社会通念上不相当な手段としてカスハラに該当するケースがあります。
カスハラは、顧客側に悪意がなかったとしても、相手の受け取り方や状況によっては加害行為となる場合もあるため、誰もが当事者になりうることを念頭に置き、慎重な対応を取ることが求められます。
クライアントや顧客から受けるクレームや要望のうち、次の3点に該当する場合には、カスハラと判断される可能性があります。
たとえば、顧客の要望そのものが不適切な場合、その過程が丁寧であったとしても、行為全体がカスハラとみなされることがあります。
一方で、顧客の要望が正当なものであったとしても、度を超えた言動や脅迫的な態度、業務を妨げるような執拗な追及などがあれば、それだけでカスハラと判断される可能性があります。
カスハラに該当するかどうかは、状況の文脈や第三者の視点による総合的な判断が必要です。企業としては、具体的な判断基準を事前に定めておくことが、従業員の迷いや混乱を防ぐうえでも重要だといえるでしょう。
企業としてカスハラのリスクに備えるためには、組織としての姿勢を明確にし、従業員が安心して業務にあたることができる環境を整えることが不可欠です。ここでは、企業が取り組むべき代表的な対応策と取り組み例を紹介します。
まず必要となるのは、「カスハラを容認しない」という組織としての明確な姿勢を打ち出すことです。経営層が発信するトップメッセージとして基本方針を掲げることで、従業員に対して心理的な安心感を提供し、組織全体の行動規範として浸透させることができます。
基本方針に盛り込むべき主な項目は、以下の7点です。
これらの方針は、社内向けの通知だけでなく、企業の公式サイトや採用ページなどを通じて、社外にも積極的に発信しましょう。組織全体としてカスハラを認めない姿勢を広く発信することで、トラブルを防止して従業員を守るだけでなく、企業の信頼性向上にもつながります。
基本方針とガイドラインを明文化して運用している企業の取り組みについては、以下を参考にしてください。
参考:あかるい職場応援団_カスタマーハラスメントへの取組により従業員の安心感を獲得!
次に取り組むべきは、現場での対応を支援するための「対応マニュアル」の整備です。マニュアルは、カスハラかにあたるか否かの判断や、発生時における適切かつ一貫性のある対応を実現するために作成します。
マニュアルに盛り込むべき項目は、以下が基本となります。
過去の事例やカスハラにあたる行為を明確化しておくと、以降の対応がスムーズに進みます。
特に、不特定多数の顧客と接するコールセンター業務などでは、クレーム対応専用のマニュアルを別途用意している企業も多く見られます。
報告・相談フローを明確にすることで、従業員がためらわずに相談できる体制を築くことができます。カスハラと判断すべきかどうか、報告を上げるべきかどうかに悩み、躊躇して相談できないケースを減少させられるでしょう。なお、対応の引継ぎをスムーズに行うためには、発生した言動を時系列で整理し、客観的に記録しておくことが望まれます。
マニュアル整備に積極的に取り組んでいる企業の事例は、こちらをご参照ください。
参考:あかるい職場応援団_社員の健全な業務を守るため、カスハラ対策の取組を始動
カスハラへの適切な対応を進めるうえで、従業員が被害に悩む場合や判断に迷うときに、安心して相談できる窓口を設けておくことが重要です。窓口を設置することで、早い段階で対処できるようになります。カスハラに対して組織全体で対応できる体制を整えましょう。
相談窓口が担う主な役割は、次のとおりです。
すべてのトラブルが明確に「カスハラ」と判断できるものではありませんが、従業員が「つらい」「苦しい」「困っている」と感じている時点で、その声に耳を傾ける体制は必要です。
相談窓口が単なる報告先ではなく、判断・対応・支援までを一貫して担える体制を整えることで、従業員の心理的安全性が確保できます。状況に応じて、弁護士、警察、産業医、カウンセラーなど、外部の専門機関との連携も視野に入れる必要があります。
さまざまな外部機関と連携し、心理的安全性を確保しながらクライアント対応に取り組んでいる企業の事例はこちらをご参照ください。
参考:あかるい職場応援団_従業員が本来の業務に専念できる職場環境を目指して
カスハラの中には、従業員の氏名などの個人情報を知った顧客から、指名による呼び出しや執拗な接触(つきまといなど)を受けるケースもあります。このようなリスクに備えて、従業員のプライバシー保護を含む総合的な対策が求められます。
具体的な対応策としては、次のような取り組みが挙げられます。
従来は、顧客対応において担当者が「自分の名前を名乗る」ことが一般的とされてきましたが、近年では従業員の安全確保を優先し、企業名・部署名のみでの対応へ切り替える企業も増えています。
また、通話録音のアナウンスを事前に入れることは、顧客側に過度な発言や度を超えたクレームを抑制させる効果も期待できます。
SNS上での執拗なつきまとい行為が契機となり、従業員保護の取り組みを強化した企業の事例はこちらをご覧ください。
参考:あかるい職場応援団_取組のきっかけはSNSでのつきまとい行為
カスハラに関する知識と対応力を社内全体で高めるには、定期的な研修の実施が効果的です。研修では従業員が自信を持って行動できるよう、知識と判断力の習得を目指す内容にすることが重要です。
主な研修カリキュラムの例は、次のとおりです。
顧客を「お客様」として尊重する企業文化が根強い職場では、理不尽な要求やクレームに対しても我慢してしまう傾向があるのではないでしょうか。こうした職場風土の中では、カスハラの明確な定義と、「相談することが正しい行動である」という意識への改革が必要です。
カスハラの中には、顧客の言動が名誉毀損や脅迫などの違法行為に該当するケースもあります。また、従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼす場合には、専門的なケアが必要になることもあります。
こうした背景から、弁護士やカウンセラーなど外部の専門家を講師に招く研修は、状況に応じた冷静な判断と適切な対応を身につけるうえで有効です。
クライアントの健全な関係性を築くためにも、従業員一人ひとりが「適切に相談し、適切に対応する力」を身に付けられる体制づくりが求められます。
カスハラに対する知識・対策の定着を目的として、研修を強化した企業の取り組み例をご紹介します。
参考:あかるい職場応援団_世界一のサービス品質と安心して働ける職場環境の両立を目指して
参考:あかるい職場応援団_会員の声を聞いて、カスハラ対策の取組を始めました
カスハラは、従業員のメンタルや職場の安全性に深刻な影響を与えるだけでなく、企業の信用にも関わる重大なリスクとなっており、対策が急務です。組織としての明確な方針、現場で活かせるマニュアル、相談体制の整備、そして従業員への継続的な教育が、対策の柱となります。
また、今回取り上げたカスハラをはじめとする各種ハラスメントに企業として適切に対処するためには、明確な方針や相談窓口の設置とあわせて、従業員一人ひとりの理解と対応力を高めるための研修が欠かせません。
アスマークが提供する「CHeck研修」は、パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラなど、ハラスメント全般に対応した、多彩な講師陣と豊富なコンテンツが魅力の研修サービスです。弁護士・カウンセラーを講師に迎えた実践的な講義を通じて、管理職から一般社員まで、組織全体のリスク感度と対応力を育成できます。
また、自社課題に応じたカスタマイズも可能で、対面だけでなくe-ラーニングなど柔軟な形式での実施が可能です。教材配信サービスも提供しており、社内での継続的な研修体制づくりにもお役立ていただけます。
カスハラを含むハラスメント対策に取り組む際の選択肢として、「CHeck研修」の導入をぜひご検討ください。
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