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令和6年8月28日、内閣官房・経済産業省・厚生労働省が連名で「ジョブ型人事指針」を公表しました。
そこで今回は、政府も推進するジョブ型人事についてご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
ジョブ型人事とは、職務内容を基に雇用契約を結ぶ制度です。雇用契約書には、仕事内容に加えて労働時間や責任範囲などが明記されます。この制度は、諸外国で広く採用されており、仕事内容や責任の範囲に応じて報酬が決定される仕組みです。企業は、プロジェクトに必要なスキルを持つ人材を採用します。
ジョブ型人事は「仕事に人をあてる」制度である一方、メンバーシップ型は「人に仕事をあてる」制度です。それぞれの違いは、次のとおりです。
ジョブ型人事が注目される背景には、多様な働き方の浸透と高度なスキルを持つ人材の不足があります。詳しく見ていきましょう。
1990年代以降、女性の社会進出が進み、時短勤務や副業など多様な働き方が推進されるようになりました。終身雇用制度が崩壊し、これまで主流だったメンバーシップ型の維持が難しくなったことも、ジョブ型人事が注目される理由の一つです。
さらに2020年には、新型コロナウイルスの流行を機にテレワークが急速に普及しました。テレワーク環境では、従業員の様子を直接観察して評価することが困難であるため、成果を重視するジョブ型人事へのシフトが進んだとも考えられます。
当社の調査においても、多様な働き方を求める意見が多く寄せられています。合わせてご参考ください。
急速なIT技術の発展により、新しいスキルを持つエンジニアなどの人材不足が深刻化しています。即戦力を求める状況においては、一からスキルを育てるメンバーシップ型は非効率と言わざるを得ません。加えて、テレワークの普及に伴い、国や地域を超えて優秀な人材を採用することが可能となったため、世界的な人材獲得競争への対応も求められていることから、ジョブ型人事へのシフトが注目され始めました。
ジョブ型人事には、企業と従業員の両方にとって以下のようなメリットがあります。
賃金の適正化
ジョブ型の賃金制度は成果主義が主です。成果の有無に関わらず「勤続年数の長さ」によって高い給与が支払われることも多いメンバーシップ型に比べて、給与を適正化しやすいといえます。
効率的な人員配置
プロジェクトに必要なスキルを持つ人材を配置することで、効率的な人員配置が可能です。
採用のミスマッチ軽減
はじめに職務内容を明確に定義するため、採用段階でのミスマッチが軽減できます。
モチベーションの維持
自分のスキルを生かした業務を担当できるため、仕事への意欲を高め、モチベーションも維持しやすくなります。
賃金アップが期待できる
ジョブ型人事では、勤続年数や年齢に関わらず、成果に見合った報酬が得られるため、早期の昇給が期待できます。このことがさらなるモチベーションアップにもつながります。
一方で、グローバルスタンダードのジョブ型人事には、以下のようなデメリットもあります。企業と従業員それぞれから見たデメリットを解説します。
人材の流動化
ジョブ型人事では、採用時に業務範囲や権限が決められているため、昇進や異動の柔軟性が低くなる傾向があります。このため、管理職や新たな役割を求める従業員が現状に限界を感じ、離職を検討するケースが生じやすくなります。また、成果主義の特徴から、高い成果を上げた従業員が、より良い条件を求めて他社へ転職する可能性も高まります。
希望人材の確保が困難
採用段階で業務範囲を限定するため、メンバーシップ型に比べて応募数が少なく、希望に合う人材を獲得しづらいという課題があります。
未担当業務の発生
ジョブ型では業務範囲が限定されているため、契約外の業務やタスク(代表電話の対応やオフィスの美化など)を行う人がいない状況が生じる可能性があります。ジョブ型ならではの、こうした未担当業務の発生や、業務の属人化には注意が必要です。
雇用の不安定性
業務範囲が定められているため、プロジェクトが終了すると同時に仕事がなくなる可能性があり、雇用が維持できず、安定しない場合があります。
スキルアップへの高い要求
ジョブ型人事では採用時に業務範囲やスキル要件が明確に定められているため、採用の段階で基準を満たしていない人材にとっては、ジョブ型の職場に就業することのハードルは高くなります。また、入社後も、契約した業務範囲内・範囲外を問わず、高度な専門性を維持し、最新の知識や技術を習得し続ける姿勢が求められます。このことから、スキルアップや専門性の追求という負担が個人に生じやすい点が挙げられます。
メンバーシップ型からジョブ型へ移行した場合、給与体系や人材育成において大きな変化が生じます。具体的なポイントを確認しておきましょう。
ジョブ型人事では、給与はスキルレベルや職務内容によって決まります。従来の勤続年数や年齢を基準とした給与体系と違い、定期昇給や手当がなくなり、スキルが基準に満たなければ減給される可能性もあります。一方で、スキルアップを重ねることで、短期間での昇給が期待できる場合もあります。
ジョブ型では業務範囲が限定されており、従業員ごとに業務範囲やレベルが異なるため、メンバーシップ型で実施していたような一律の教育が困難になります。職務に合わせた研修を実施する必要があり、企業側には柔軟な教育プログラムが求められます。また、諸外国では「自分のスキルは、自分で上げるのが当たり前(スキルアップは自己責任)」という考え方が強く、従業員自身が積極的に学び続ける姿勢が重要視されます。
ジョブ型人事は、次のステップにより導入します。
1. 職務の洗い出し
まずは現在の業務をリストアップし、職務内容やレベルを明確にします。
2. 職務の評価とレベル分け
各業務の重要性や難易度を評価し、必要なスキルや経験に応じてレベルを設定します。この作業には、業務内容を詳細に分析することが求められるため、従業員へのヒアリングや上司・人事担当者の観察を通じて実状を把握することが重要です。
3. 報酬の決定
職務内容とレベルに応じて、報酬体系を定め、等級を設定します。各職務の重要性や必要なスキル、責任範囲を苦慮し、業界水準や社内の公平性を踏まえて報酬を設計しましょう。
これらの導入ステップはシンプルに見えますが、実際の作業量は膨大です。はじめは管理職や特定の部署から導入するなど、範囲を限定して導入するとよいでしょう。また、企業の業務は変化するため、定期的な見直しを行い、その時期に適した人事制度を確立していくことも重要です。
こうしたプロセスが、従業員のモチベーション向上や適切な人材配置の鍵となります。
人事評価制度については、以下のような資料も公開しています。
ジョブ型人事を導入した事例を2社ご紹介します。
富士通は、2020年4月から幹部職員を対象にジョブ型人事を導入し、2022年4月には国内グループの一般社員45,000人にも範囲を拡大しました。ビジョンや戦略に基づいて職務範囲が設定され、責任範囲や期待値を定めた職務記述書を作成し、それに基づいて報酬や評価が決定されます。評価基準としては、顧客や社会に与えた影響、行動、成長を重視しています。また、従業員が自ら応募してさまざまな業務にチャレンジできる「ポスティング制度」を採用するなど、キャリア形成を支援する仕組みも整えています。
オムロンは、2011年から役職者を中心にジョブ型人事を導入しました。一方で、新卒入社後3~5年の主査未満の社員には、この制度を適用していません。最初の数年間で多様な業務を経験し、自分の強みややりたいことを見つける期間として確保するためです。
職務の定義については実効性を重視しており、ポジションごとに個別の職務定義書を作成するのではなく、部門単位で必要な要素を、幅を持たせて策定し、それぞれのポジションに対する職務評価は個別に実施しています。
また、専門性を活かしたキャリア形成を支援する「スペシャリスト制度」により、ピープルマネジメントの能力の有無に関わらず、専門スキルを重視して適正に評価しています。
ジョブ型人事には企業にとってさまざまなメリットがある一方で、人材の流動化リスクが課題として挙げられます。この課題に対応するためには、従業員の満足度や離職意向、その要因を可視化し、適切に対策を講じることが必要です。
アスマークの「ASQ」は、離職意向やその要因を可視化できる従業員満足度調査です。調査歴20年以上の経験豊富なプロが調査設計から分析まで手掛け、改善につながる施策の提案まで含めたアウトプットを提供します。
施策提言まで込みの
真に役立つES調査パッケージ
ジョブ型人事の導入を検討する際は、従業員の状態を把握するための満足度調査も一緒に検討されてみてはいかがでしょうか。
株式会社アスマーク 営業部 Humap事業G