
INDEX
リモートワークが一般化した現在、人事担当者の中には、「オンライン上のやり取りが原因でトラブルが起きているのではないか」「見えない場所でハラスメントが生じているのではないか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
非対面が前提となるリモート環境では、問題が表面化しにくく、企業が実態を把握しないまま深刻化するおそれがあります。厚生労働省のテレワークガイドラインでも、テレワーク下であってもオフィス勤務と同様にハラスメント防止対策を十分に講じる必要があると示されており、メンタルヘルスや人間関係への配慮の重要性を指摘しています。
リモート環境の課題は、単なる働き方の変化にとどまりません。見えにくい状況下で、どう実態を把握し、どう未然防止につなげるかという、人事・労務管理のあり方そのものが問われています。
リモハラ(リモートハラスメント)は、単なるコミュニケーションの行き違いとして片付けるべき問題ではありません。法的な位置づけと、リモートワーク特有の環境変化の両面から整理する必要があります。ここでは、基本的な定義と背景を確認します。
リモハラとは、リモートワーク環境において、チャットやメール、Web会議などを通じて行われるハラスメント行為を指します。精神的苦痛を与える言動や、就業環境を悪化させる行動が該当します。
法令上、「リモハラ」という独立した用語があるわけではありません。ただし、職場パワーハラスメントは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」であり、「業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの」とされており、業務を行う場所は通常の就業場所に限られません。したがって、オンライン上の言動であっても、その内容や態様によってはハラスメントに該当し得ます。
リモートワークでは、対面時のように相手の様子や職場の空気を直接確認しにくくなるため、ハラスメントの生じ方や周囲の気づき方にも変化が見られます。
たとえば、
こうした要素が重なることで、従来とは異なる形で心理的負担や摩擦が生じやすくなっています。
対面環境とリモート環境では、ハラスメントの「発生の仕方」だけでなく、「気づき方」や「判断のしやすさ」にも大きな違いがあります。
| 観点 | 対面環境 | リモート環境 |
|---|---|---|
| 状況把握 | 表情や声色から違和感を察知しやすい | テキスト中心で意図や感情が伝わりにくい |
| 周囲の関与 | 同席者が異変に気づく可能性がある | 当事者間の閉鎖的なやり取りになりやすく、第三者が介入しにくい |
| 証拠 | 明確な記録が残りにくい | ログは残るが、文脈や意図の解釈にズレが生じやすい |
このように、リモート環境では「記録は残るが、実態の判断が難しい」という特徴があります。人事が対応する際にも、ログの有無だけで結論を急がず、前後関係や継続性を含めて慎重に事実認定する姿勢が求められます。
近年、職場のハラスメント対策は企業にとって無視できないテーマとなっています。 厚生労働省が行った調査によると、パワーハラスメントの被害経験者は約2割に上ります。また、被害を受けた後に「何もしなかった」と回答した人はパワハラで36.9%、セクハラで51.7%を占めており、表面化しないまま放置されているケースが少なくないことがうかがえます。


出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書
リモート環境では、もともと相談のきっかけが生まれにくく、周囲も変化に気づきにくいため、この「声が上がりにくい」という傾向がさらに強まりやすくなります。結果として、問題が顕在化したときには、離職意向の高まりやメンタル不調など深刻な状態に至っている可能性もあります。
リモハラは、単に個人の資質や性格だけで生じるものではなく、リモートワーク特有の構造によって生じます。ここでは主な要因を整理します。
リモート環境では、チャットやメールなどのテキストコミュニケーションが中心になりやすく、表情や声色といった非言語情報が補いにくくなります。その結果、同じ内容であっても、受け手の解釈に大きく左右される場面が増えます。
たとえば、簡潔な業務指示が「冷たい」「高圧的」と受け取られたり、言葉選びが意図せず攻撃的に解釈されたりすることがあります。こうした認識のズレは、単発であれば問題にならなくても、繰り返されることで心理的負担となり、ハラスメントとして認識される可能性があります。
リモートワークでは、雑談や偶発的なコミュニケーションが減少することで、上司・部下間の信頼関係が構築されにくくなる傾向があります。関係性の土台が十分に築かれていない状態では、同じ指示や確認であっても、受け手の心理的負担が大きくなりがちです。
一方で、管理職側も、部下の業務状況や進捗が把握しづらくなることで、「“見えない”不安」を抱えやすくなります。この不安が、過度な進捗確認や頻繁な報告要求といった行動につながれば、適切なマネジメントではなく、過干渉と受け止められるケースが発生します。
リモート環境では、対面であれば自然に行われていたフォローや補足が入りにくく、質問や相談のハードルが上がる傾向があります。何か気になることや不安があっても、「チャットで相談してもいい内容なのか」「いちいち聞くと煩わしいのではないか」「空気を悪くしたくない」といった感情が生まれやすく、結果として問題が表面化しにくくなります。
リモートワークにおけるルールが明確でない場合、「どこまでが業務上必要な対応で、どこからが行き過ぎなのか」が個人の判断に委ねられてしまいます。その結果、上司や部署ごとに運用がばらつき、組織内で不公平感や萎縮が生じやすくなります。
たとえば、時間外連絡の扱いが組織として明確化されていない場合、ある部署では夜間など時間外の連絡や返信が当然のように求められ、別の部署では求められない、といった運用差が生じます。
このように、期待される行動の基準が不明確な状態では、「応じておいた方が無難ではないか」といった過剰な配慮や同調が生まれやすくなります。その結果、本来は任意であるはずの対応が事実上の義務として機能し、「暗黙の圧力」として働くおそれがあります。
リモート環境では、日常的な業務行為が、そのやり方次第でハラスメントに転じることがあります。代表的な例を整理します。
業務管理の一環として進捗確認を行うこと自体は問題ありません。しかし、常時カメラ接続の強制や、過剰な頻度での報告要求は、従業員に強い緊張やストレスを与えます。
特に、「常に見られている状態」を前提とした管理は、業務効率の低下だけでなく、心理的負担を増大させる要因となります。業務上の合理性や必要性を超えている場合には、“管理”ではなく“監視”と受け止められ、ハラスメントに該当し得ます。
また、「ほかのメンバーもやっているから」という理由で一律に強要するケースも見られますが、個々の業務内容や役割に照らして、本当に必要な管理であるかどうかを見極める視点が欠かせません。
テキストコミュニケーションでは、本人の意図と関係なく強い印象を与えやすくなることがあります。加えて、意図的な未返信、既読無視(返信や対応が必要な場面でわざと放置する)、特定のメンバーだけ対応を遅らせる行為などは、業務上の不安や疎外感を生みやすいものです。
こうした対応が継続する場合には、精神的苦痛を与える行為として、ハラスメントと評価される可能性があります。
もっとも、業務上の優先順位や多忙によって返信が遅れるケースもあるため、すべてを直ちにハラスメントとみなすのは適切ではありません。判断にあたっては、「意図性」「継続性」「対象の偏り」といった要素を確認する必要があります。
リモート環境では、相手の勤務状況が見えにくい一方で、連絡自体はしやすいため、勤務時間外でも返信や対応を求める運用が生じやすくなります。その結果、勤務時間外の連絡や、即時レスポンスの要求が常態化してしまうことがあります。
業務上の緊急性や事前の取り決めがないまま、時間外対応を継続的に求めることは、従業員に実質的な拘束を生じさせるだけでなく、労働時間の適切な管理を曖昧にする要因にもなります。運用次第では、未申告の時間外労働やサービス残業を招くおそれもあり、労務管理上の問題としても看過できません。
また、こうした状態が続くと、長時間労働やメンタル不調の一因となり、ハラスメントと判断される場合があります。
出社している従業員と、リモート勤務の従業員との間で、情報共有の機会やコミュニケーション量に差が生じると、評価の公平性が損なわれるリスクがあります。
たとえば、出社者のみが参加する非公式な打ち合わせや雑談の中で重要な情報が共有される場合、リモート勤務者は意思決定のプロセスから取り残される可能性があります。その結果、成果とは別のところで評価差が生まれ、不満や不信感を招く要因となります。
これは厳密には制度運用上の問題ですが、放置すると特定の働き方に不利益を集中させる状態になり、ハラスメント的な状況として捉えられることがあります。
実務においては、日常的な業務の延長線上で発生するトラブルが少なくありません。これらは、単発では軽微に見えても、継続することで心理的負担が蓄積し、深刻化しやすい点に特徴があります。
このような事例は、「業務の一環」として見過ごされやすい一方で、従業員のエンゲージメント低下や離職意向の高まりにつながるリスクをはらんでいます。
人事としては、個別のトラブルとして処理するだけでなく、組織全体の傾向として捉える視点が重要です。
リモハラの最大の問題は、「発生していても気づかれない」点にあります。これは個人の感受性の問題というより、リモート環境そのものが持つ構造的な特徴によるものです。
非対面環境では、声色や表情といった非言語情報が伝わりにくく、相手の状態を正確に把握しにくくなります。そのため、深刻な状況であっても周囲が違和感を察知しにくく、問題が見過ごされやすくなります。
リモートワークでは、周囲との接点が減少し、日常的な雑談や相談の機会が生まれにくくなります。そのため、違和感や不満があっても「これくらいで相談していいのか」「自分の受け取り方の問題ではないか」と迷い、声を上げること自体をためらいやすくなります。 また、チャットやオンライン会議といった限られた接点の中では、相手との関係性が十分に築かれていない場合も多く、問題を共有する心理的ハードルが高くなりがちです。こうした状況は、被害の抱え込みや、問題の長期化につながりやすい要因といえます。
一方で、管理職や人事の側にとっても、リモート環境では従業員の状態を把握することが難しくなります。対面であれば、表情や声のトーン、何気ない会話から違和感を察知できた場面でも、オンラインではそうした変化を捉えにくくなります。
さらに、やり取りが個別のチャットやオンライン会議の中で完結する場合、周囲が状況を把握する機会も限られます。その結果、問題が顕在化するまで認識されず、早期対応が難しくなるという構造的な課題があります。
オンライン上のやり取りは記録が残る一方で、文脈や意図が伝わりにくいことも多く、ハラスメントかどうかの判断が難しくなりがちです。この曖昧さが、「気になるが、問題化するほどではないのではないか」という迷いを生み、結果として放置を招く要因となります。
リモハラを防止するためには、単に注意喚起を行うだけでなく、リモート環境に適したルールと運用の両方を整え、相談しやすく、気づきやすい状態をつくることが不可欠です。
リモート環境で起こり得る具体例を明文化し、「どのような行為が問題となるのか」を社内で共有することが重要です。判断基準が曖昧なままだと、加害・被害の双方で認識のズレが生じやすくなります。 リモート特有の事例を盛り込んだガイドラインを整備することで、無自覚なハラスメントの防止にもつながります。
返信時間、連絡可能時間、会議の進め方などを明確にすることで、不要な摩擦を防ぎやすくなります。共通ルールがあることで、業務上の期待値が揃い、「どこまで求めてよいのか」が個人依存になりにくくなります。
リモート環境では、従来の「見えていること」を前提にした管理が機能しにくくなります。そのため、管理職には、成果ベースでのマネジメントや、過干渉を避けるコミュニケーションの工夫が求められます。
あわせて、無自覚なハラスメントを防ぐためには、事例を用いた研修やケーススタディを実施し、適切な関わり方を理解してもらうことが重要です。
心理的安全性とは、従業員が不安や不利益を過度に恐れずに意見や疑問を表明できる状態を指します。 リモート環境では、発言や相談の機会が自然に生まれにくいため、意図的に対話の場を設けることが必要です。たとえば、定期的な1on1や短時間の雑談機会を設けることで関係性を補い、発言しやすい雰囲気をつくることが、ハラスメントの予防と早期発見の両面で効果を発揮します。
ハラスメントの早期解決には、従業員が安心して相談できる環境が欠かせません。社内窓口だけでなく、匿名で相談可能な外部窓口の設置も有効です。
また、相談後の対応フローを明確にし、迅速かつ公平に対応する体制を整えることが重要です。相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止する方針を明示することで、窓口の利用促進にもつながります。
| 施策 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 内部窓口 | 人事・コンプラ窓口 | 迅速な対応が可能 |
| 外部窓口 | 弁護士・第三者機関 | 匿名性・中立性を確保しやすい |
| オンライン相談 | フォーム・チャット | 利用ハードルが低い |
リモハラは表面化しにくいため、感覚的な判断や、問題が起きたときの個別対応だけでは十分な対策ができません。組織として継続的に実態を把握し、データに基づいて改善を重ねることが重要です。
リモハラは、当事者間のやり取りの中で完結しやすく、外から見えにくい特徴があります。 だからこそ、実態を可視化し、組織としての対応力を高めるうえでも可視化は欠かせません。
現場で働く従業員の声には、制度や運用のほころびが表れます。特にリモート環境では、表面に出にくい不満やストレスが蓄積しやすいため、意識的に声を集める仕組みが必要です。 アンケートや面談を通じて現状を把握することで、「どの部署で」「どのような違和感が」「どの程度起きているのか」を把握しやすくなり、実態に即した改善施策につながります。
実態把握には、傾向を広く捉える定量データと、背景や受け止め方を把握する定性データの両方が必要です。たとえば、満足度や離職率といった数値だけでは、なぜ起きているのか原因を特定することは困難です。 自由記述や面談内容と組み合わせることで、問題の背景や当事者の受け止め方まで把握しやすくなり、より実効性の高い対策を検討しやすくなります。
| データ区分 | 内容 | 活用方法 |
|---|---|---|
| 定量データ | アンケート・離職率 | 組織全体の傾向把握 |
| 定性データ | 自由記述・面談 | 問題の具体化、背景把握 |
▼「従業員調査」でハラスメントの理解度や発生状況を把握
アスマークの「CHeck」は、コンプライアンスからハラスメントまでを含めた、従業員の本音や実態を把握できる調査サービスです。匿名性が担保されることで、通常は表に出にくい不満や不安も収集できます。定期的に実施すれば、対策の浸透度や変化の兆しを継続的に確認でき、リモハラの予防や早期対応につなげることが可能となります。
▼コミュニケーションを取りやすくする「在席管理ツール」
「せきなび」は、誰がどこで何をしているかをひと目で確認できる在席管理ツールです。リモートワークや出社、フリーアドレスが混在する環境では、相手の勤務状況や所在が見えにくいことが、連絡の行き違いやコミュニケーションのストレスにつながることがあります。「せきなび」は、オフィスや在宅を含めた社員の所在や状況が一つの画面で確認できるため、「見えない」ことによる連携の取りづらさを改善し、不要な摩擦の抑制にも役立ちます。
リモハラは、リモート環境特有のコミュニケーション構造や運用のばらつきによって生じやすく、対面時と比べて周囲が気づきにくいという特徴があります。また、被害者が声を上げにくく、問題が表面化しにくい点も見逃せません。
だからこそ、企業は「起きてから対応する」のではなく、「起きる前に把握する」体制を整える必要があります。 個別の相談対応だけでなく、ルール整備やマネジメントの見直しに加え、調査やデータを活用した実態把握を通じて、問題の兆候を継続的に捉える仕組みが求められます。
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ハラスメント・エンゲージメント・働き方改革に関する知見発信において、自社登壇セミナー開催数は累計320回、申込者数は23,000人を突破。関連資料の利用者は17,000人以上。(※2026年現在)
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大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000018991.html
監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)
株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。従業員満足度調査「ASQ」のサービス立ち上げに参画し、業界比較分析も起案。人材コンサル会社と協力し「やりっぱなしで終わらせず、改善できるES調査」の開発を主導。
本記事の監修にあたって: 自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。