カスハラ対応を現場任せにしない!ガイドライン作成の重要性と法律知識|カスハラ対策講義【後編】

※このコラムは、オンラインセミナー『2026年法改正、待ったなし「カスハラ対策で社員を守る」=義務に!企業はどう対応すべきか』の内容をもとに作成しています。

はじめに:カスハラ対策には、具体的な行動指針が必要

2026年の法改正により、企業に義務化されるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策。前編では、カスハラの定義や通常のクレームとの違い、相手の怒りのメカニズムといった「基礎知識」について解説しました。
しかし、現場の社員を守るためには、知識だけでなく「具体的な行動指針」が必要です。

本記事では、組織として備えるべき「ガイドラインの策定」や、悪質な要求に対する「法的根拠に基づいた対応」について、具体的なケースを交えて解説します。

 

前編はこちら
「カスハラとクレームの違いは?2026年法改正で義務化!定義と初期対応を解説|カスハラ対策講義【前編】」

 

ガイドライン作成の重要性:社員の「盾」と「鎧」

カスハラ対応について、多くの現場で聞かれるのが、「どう対応すればよいのか、その場で判断できない」という声です。これは担当者の能力や意識の問題というよりも、組織として判断基準が共有されていないことから生じています。

ここで重要になるのが、ガイドラインの存在です。
マニュアルは「こうしなければならない」という必須事項を示すものですが、ガイドラインは、「こう対応してよい」という選択肢を示します。この違いは、現場にとって非常に大きな意味を持ちます。

ガイドラインで現場を守る

ガイドラインがあることで、従業員は、

  • この対応で間違っていないだろうか
  • 後から責められないだろうか

といった不安を抱えずに済みます。

さらに、ガイドラインを整備することは、

  • 従業員を守る
  • 理不尽な要求には毅然と線を引く

というメッセージを企業として明確に伝えることでもあります。

 

クレームやカスハラ対応は、個人の感覚や経験だけで乗り切れるものではありません。
ガイドラインは、現場で対応する従業員にとっての「盾」であり、組織として守る姿勢を示す「鎧」です。
日常的に「守られている」という実感を得ることで、対応に向き合う心理的負荷を下げることができ、従業員は安心して業務に集中できます。そして、その積み重ねが職場の安定や定着にもつながっていきます。

【ケース別】法的根拠に基づく具体的な対応の引き出し

カスハラ対応で現場が最も困るのは、「この場面では、どこまで対応してよいのか」という判断です。
感情的なやり取りの中では、冷静に線を引くことが難しく、結果として対応が長期化したり、担当者が過度な負担を背負ってしまったりするケースも少なくありません。 そこで重要になるのが、対応を二段階で考える視点です。

「やんわり対応」と「毅然とした対応」

カスハラ対応は、最初から強く出るか、最後まで我慢するか、という二択ではありません。
判断基準を組織としてあらかじめ共有しておき、「やんわり対応」と「毅然とした対応」を段階的に使い分けることで、無用なエスカレーションを防ぎつつ、従業員を守ることができます。

・初期段階では「やんわり対応」
やんわり対応とは、相手を刺激しない言葉選びや態度(共感・受容)を通じて、これ以上の要求や行為を続けさせないための対応です。

・要求がエスカレートしてきたら「毅然とした対応」
相手の要求や態様がエスカレートしてきたら、ガイドラインに基づき毅然とした対応を取ります。ここまで来たら対応を続けない、あるいは外部(警察など)の力を借りる、という判断も含まれます。

カスハラ

ケース1:土下座の強要

―強要罪・脅迫罪に当たる可能性があるケース
土下座の強要や、反社会的勢力との関係をほのめかすような言動は、相手に恐怖を与えて要求を通そうとする行為であり、通常のクレームの範囲を明らかに超えています。
やんわり対応としては、「恐怖を感じるため、これ以上の対応はできない」と明確に理由を伝えたうえで、対応を打ち切ります。
それでも行為が止まらない場合には、毅然とした対応に切り替えます。この段階では、「即座に110番通報を行ってよい」基準を、組織として定めておくことが不可欠です。

ケース2:誠意を見せろ/トップを出せ

―強要罪・恐喝罪に当たる可能性があるケース
「誠意を見せろ」「トップを出せ」といった要求があり、金品や特別扱いを求める場合には、強要罪や恐喝罪に該当する可能性があります。
このケースで最も重要なのは、企業側から“誠意の中身”を提示しないことです。
やんわり対応としては、「こちらで対応できる範囲は、すでに説明した内容に限られる」ということを繰り返し伝え、新たな選択肢を出さないことが基本です。
それでも金銭や特別対応を迫られる場合には、毅然とした対応に切り替え、これ以上の対応はできないと明確に線を引きます。

どんなケースにも対応の仕方はある

こうした対応の考え方は、場当たり的に作られたものではありません。小菅氏は、実務の現場で蓄積された事例をもとに、カスハラや不当要求、いわゆる“難クレーム”について、対応の方向性を「28のパターン」に整理しています。
この分類は約5年前に構築されたものですが、その後、1,000件を超える実際のクレーム事例を検証してきた中で、この枠組みに当てはまらなかったケースは一件もありませんでした。

どのような形で表出するクレームであっても、背景や構造を整理すれば、対応の軸は必ず見えてきます。重要なのは、その場の感情や経験に頼るのではなく、あらかじめ整理された「対応の引き出し」を組織として共有しておくことなのです。

知っておきたいカスハラ関連の法律知識

カスハラ対応において、現場で判断に迷いが生じる背景には、

  • 「どこからが違法なのか分からない」
  • 「警察を呼んでもよいラインが分からない」

という不安があります。

最低限の法的知識を共有しておくことで、こうした迷いは大きく減らせます。

不退去罪

退去を求められているにもかかわらず、その場に居座り続ける行為は、不退去罪に該当する可能性があります。対応方法としては、相手に対して「これ以上対応できないため、退去してほしい」という意思を明確に伝えます。意思表示を複数回行い、それでも一定時間居座る場合には、110番通報を行ってよい判断ラインと考えられます。
こうした目安を事前に共有しておくことで、現場が一人で判断を抱え込まずに済みます。

威力業務妨害罪・強要罪・脅迫罪

カスハラの中には、通常のクレームを超え、犯罪に該当する可能性がある行為も含まれます。

・大声や威圧的な態度で業務を妨げる
 →威力業務妨害罪に該当する可能性

・土下座の強要や、金品・特別扱いを求める行為
 →強要罪に該当する可能性

・反社会的勢力との関係をほのめかす、危害を示唆する言動
 →脅迫罪に該当する可能性

ただし、ここで重要なのは、その場で犯罪かどうかを断定しようとしないことです。「それは犯罪ですよ」などと強い言葉で刺激すると、かえって事態を悪化させる危険性があるためです。

法的根拠を知ることで、従業員は安心できる

法的根拠を知っていることで、

  • 「ここから先は無理に対応しない」
  • 「外部に相談してよい」

という判断を、個人ではなく「組織の判断」として行えるようになります。

カスハラ対策における法律知識は、現場の萎縮を防ぎ、従業員の安心・安全を守ることにつながります。

カスハラ傾向分析:増加する「ホワイトカラータイプ」

データから見るカスハラの傾向

近年のカスハラには、一定の傾向が見られます。
労働組合UAゼンゼンの調査によると、迷惑行為を行った顧客の性別は7割が男性であり、推定年齢層は50歳代以上が大半を占めているという結果が報告されています。

出典:UAゼンゼン「第3回カスタマーハラスメントアンケート調査結果(2024年度実施)」

 

また、関西大学・池内裕美教授の調査によると、迷惑行為を行う顧客の約70%は、管理職経験のある50歳以上の男性であると分析されています。
この背景には、大きく二つのタイプがあると考えられます。

一つは、いわゆる団塊の世代。社会の中で長く一定の役割を担ってきたものの、その役割を終えた後、自己肯定感の拠り所を失いやすい層と考えられます。
もう一つは、50代前後の現役管理職層。仕事上の責任やプレッシャーを抱え、パワハラを防ぐため部下には思うような指導が行えず、感情を吐き出す場を見失っているケースもあります。

加えて、高齢の場合は、加齢に伴う身体的・認知的な変化も影響します。聴力や理解速度の低下、疲れやすさなどが重なることで、本人の意思とは別に感情が荒れやすくなってしまうこともあります。
こうした背景を踏まえると、カスハラは「一部の特殊な人の問題」ではなく、社会構造やライフステージの変化と結びついた現象だと捉えることもできるでしょう。

有効な対応方法

基本的な対応として有効なのが、まず相手への敬意を示したうえで、やり取りを長引かせない姿勢です。
「ご意見ありがとうございます」「勉強になります」といった言葉で敬意を示しつつも、必要以上に踏み込まないこと。冷静に対応を終えることが重要です。 こうした対応の仕方は、いわゆる「褒め殺し」と呼ばれることもありますが、相手を軽く扱うという意味ではなく、適切な距離を取るための工夫として捉えるとよいでしょう。

カスハラ対策がもたらす企業成長のサイクル

カスハラ対策は、「義務だから取り組むもの」「守りの施策」という捉え方にとどまりがちですが、実際には、企業の成長を支える土台として機能する側面もあります。

カスハラ対策は“守り”だけでない

対応の基準が明確になり、従業員が安心して働ける環境が整うと、心理的な負担は大きく軽減されます。
その結果、モチベーションの向上や離職の抑制につながり、採用や育成にかかるコストも安定します。

また、現場に余裕が生まれると、顧客からの正当な要望や意見に対してより丁寧な対応が可能になり、そうした積み重ねが、顧客満足度の向上企業への信頼にもつながっていきます。

前向きなカスハラ対策がもたらす効果

 

実際に、ガイドラインを整備して対応方針を明確にしたことをきっかけに、商品の売上が単月で20倍近くアップしたという企業の事例もあります。
また、飲食業では、ガイドラインを導入してからアルバイトの早期離職がゼロになり、スタッフが安心して働けるようになったという事例もあります。
これらは、決して特殊な成功例ではなく、カスハラ対策を経営課題として捉え直し、取り組んだ結果といえるでしょう。

お客様は神様ではない

「お客様は神様です」という、謝った解釈で広まってしまった有名なフレーズがありますが、お客様は神様ではありません
これは、顧客を軽視するという意味ではなく、すべての顧客に対して、公正・公平に対応するという原則です。
不当な要求には応じない一方で、正当な声には誠実に向き合う。

カスハラ対策は、義務だから行うものではありません。
従業員と顧客の双方を守り、企業が持続的に成長していくための基盤づくりとして、前向きに取り組む価値のある施策です。

貴社のカスハラ対策は万全ですか?まずは実態把握から

ここまで見てきたように、カスハラ対策は、現場対応の工夫だけで完結するテーマではありません。
従業員をどう守り、どのような判断基準を組織として持つのかという、企業姿勢そのものが問われる課題です。
法改正をきっかけに、カスハラ対策は、企業にとってより明確な責任として位置づけられることになります。

では、最初に何から取り組むべきでしょうか。

最初の一歩は、「現状を正しく知ること」です。

  • 従業員は、どの程度カスハラを経験しているのか
  • どの部署や接点でリスクが高いのか
  • どのような場面で、対応に迷いや不安が生じているのか

こうした実態を把握することで、優先順位をつけながら具体的な対策を進めることができます。

アスマークの「CHeck」は、調査による実態把握からはじまり、研修の実施、外部の相談窓口まで、企業のハラスメント対策をトータルでサポートします。
従業員アンケートを通じてカスハラを含むハラスメントリスクを可視化し、その結果をもとに、研修やガイドラインの作成へとつなげていくことができます。

 

ハラスメント対策サービス「CHeck」無料トライアル/資料ダウンロードのご案内

  • 自社のカスハラリスクを、感覚ではなくデータで把握したい
  • 現場任せになっている対応を、ガイドラインとして整理したい
  • 法改正を見据えて、早めに備えを進めておきたい

こうしたニーズをお持ちの企業様に向けて、「CHeck」では、無料トライアルや資料のダウンロードをご用意しています。
「何から着手すればよいか分からない」という段階でも、まずは現状を正しく把握するところから始め、具体的な対策まで一緒に進めていくことが可能です。

また、今回ご登壇いただいた小菅氏のカスハラ対策研修を受けられるほか、ガイドライン策定のご相談も承ることができます。
貴社の実践的なカスハラ対策を前に進めるために、ぜひ「CHeck」をご検討ください。

 

監修者プロフィール

小菅 昌秀 氏|サミット人材開発株式会社 代表取締役

多様な事例に基づく豊富な知見や法律知識を用いて、難クレーム対応に悩む多くの企業や自治体を支援してきたスペシャリスト。苦情対応の国際標準規格であるISO10002の意見書発行数トップクラス。この分野の研修の国内第一人者である柴田純男氏に長年師事し、ノウハウを承継。一番弟子・後継者として認定されている。
弁護士や暴力追放センターの講師と連携して研修を毎年行っているほか、近年は全国の自治体・企業に招かれて研修を行うケースが多い。独立後9年間で 顧客数は500を超え、依頼が後を絶たない。コンサルティング・ 講師経験は17年。マネージャー・顧問経験17年。
クレーム・カスハラ対応においては、30年間従事しており、現在も不動産管理会社の重篤なトラブルやクレーム対応に従事している。

【研修講師・コンサルタント実績】
講師・コンサルタントとして全国の400以上の官公庁・県庁・自治体、大手企業を中心とした600以上の企業で6,000回以上の研修を実施。

 

執筆者

Humap編集局

株式会社アスマーク マーケティング・CSチーム運営

Humap(ヒューマップ)編集局は、従業員1万人規模の独自調査や、CS活動を通じて寄せられる「現場のリアルな悩み」に基づき、ハラスメント・エンゲージメント・働き方改革といった組織課題解決のための知見を発信する専門組織です。
単なる用語の解説に留まらず「改善につなげる具体的な手法」や「取り組みのコツ」など明日から自社で活用できる、実践的なコンテンツを企画・制作しています。

【活動の実績】
ハラスメント・エンゲージメント・働き方改革に関する知見発信において、自社登壇セミナー開催数は累計320回、申込者数は23,000人を突破。関連資料の利用者は17,000人以上。(※2026年現在)

【受賞歴・社会活動】
・SUCCESS STORY AWARD 2025 アワード受賞(座席管理ツール「せきなび」) 受賞詳細:https://digi-mado.jp/success-story-award-2025/sekinavi/

【学術・教育支援】
大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000018991.html

監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)
株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー

リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。従業員満足度調査「ASQ」のサービス立ち上げに参画し、業界比較分析も起案。人材コンサル会社と協力し「やりっぱなしで終わらせず、改善できるES調査」の開発を主導。

本記事の監修にあたって: 自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

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