ESG経営とは?人的資本との関係と企業価値を高める実践ポイント

はじめに:ESG経営とは?いま求められる背景と目的

ESG経営とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの視点を重視し、企業の持続的な成長と長期的な企業価値の最大化を目指す経営手法です。
この記事をご覧の方の中には、自社の持続的な成長に向けて、非財務情報の開示や組織開発の新たなアプローチを模索している経営企画や人事部門の方も多いのではないでしょうか。 現代の企業経営において、財務指標だけで企業価値を測ることは難しくなっています。環境や社会への配慮、ガバナンスの透明性など、非財務領域の取り組みも企業評価の重要な軸となっています。 ここでは、なぜ今ESG経営が求められているのか、その背景と目的を整理していきます。

この記事のまとめ・概要

  • ESG経営とは?
    環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの視点を重視し、企業の持続的な成長と長期的な企業価値の最大化を目指す経営手法です。短期的な財務指標だけでなく、非財務領域のリスクマネジメントや機会創出として投資家からも重視されています。
  • ESG経営と人的資本の関係性は?
    人材を「資本」と捉えて投資を最大化する人的資本経営は、ESGの「S(社会)」領域の中心を担う重要な要素です。投資家は企業の将来的な収益性や持続性を判断する非財務情報として、人材の採用・育成、多様性、エンゲージメントの状況を注視しています。
  • 組織への浸透を阻む主な課題は?
    「目的に対する具体的なKPIの設定や現状把握が難しいこと」「経営層が描くビジョンと現場の意識の乖離」「人的資本投資による長期的な価値創造と短期的なリターン(業績)のバランスの難しさ」が挙げられます。
  • 企業価値を高めるための実践ポイントは?
    数値目標だけに捉われない「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の定着」、心身の健康を支える「健康経営とウェルビーイングの推進」、そして現状を定量的・定性的に測定して改善に繋げる「人的資本を継続的に測定する仕組み(サーベイ等)」の構築が重要です。

ESGの意味と基本的な定義

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉であり、企業が持続可能な成長を遂げるために不可欠な3つの観点を示しています。 ESGの意味を理解する上で重要なのは、これらが単なる社会貢献ではなく、企業の長期的なリスクマネジメントと成長機会の創出に関わる経営上のテーマであるという点です。これら3つの要素を事業戦略の中に組み込むことが、企業の信頼性や持続的な成長を支える基盤となります。

SDGsやCSRとの違いと、投資家から重視される理由

ESGと混同されやすい概念として、SDGsとCSRがあります。これらの違いを理解することは、効果的な経営戦略を立案する上でも重要です。

概念 主な主体と目的 視点と時間軸 財務との関連性
ESG 企業・投資家が持続的成長とリスク低減を目指す 長期的なリスク管理と機会創出 業績や企業価値に直結する非財務情報
SDGs 国連加盟国を中心に、社会課題解決を目指す 2030年までの具体的なゴール達成 目標達成プロセスが事業機会になる場合がある
CSR 企業が利益の一部を還元し、社会的責任を果たす 過去から現在におけるステークホルダーへの配慮 直接的な利益創出よりも、社会貢献・コンプライアンスを重視

投資家がESGを重視する理由は、短期的な利益追求だけでは見えない「中長期的な企業の持続可能性と潜在的リスク」を評価する判断材料になるためです。環境対応、人権への配慮、ガバナンス体制などは、将来の事業継続や企業価値にも影響する要素といえます。

ESG経営が重視されるようになった社会背景

2006年に国連が支援するPRI(責任投資原則)が提唱され、金融市場においてもESGの考え方が広がっていきました。 さらに、脱炭素化の加速やサプライチェーンにおける人権問題など、地球規模の課題が事業リスクとして認識されるようになったことも背景にあります。非財務情報への感度が低い企業は、資金調達や優秀な人材の獲得において、今後さらに厳しい状況に立たされる可能性があります。

ESGを構成する3つの要素と「S(社会)」の重要性

中長期的な企業価値向上を目指す上で、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)はそれぞれ独立したものではなく、相互に連携しながら機能しています。 特に昨今、経営層や組織開発担当者の間で急速に注目を集めているのが、「S(社会)」の領域です。ここでは、各要素が果たす役割を整理した上で、なぜ現在「社会」が組織の競争力に関わる重要なテーマとなっているのかを見ていきます。

Environment(環境)とGovernance(ガバナンス)

Environment(環境)は、気候変動対策や資源の保全など、地球環境に対する企業の責任を指します。これに逆行する活動は、規制対応や事業継続の面でリスクを伴う可能性があります。 一方、Governance(ガバナンス)は、透明性の高い情報開示や徹底したコンプライアンス、内部統制など、企業を健全に統治する仕組みです。環境への適応と健全な統治機構は、企業の土台を支える不可欠な要素です。

ESGの「S(社会)」とは?

ESGにおけるSocial(社会)とは、企業が関わるあらゆるステークホルダーとの良好な関係構築と、社会課題の解決に対する取り組みを指します。 中でも、自社の従業員に関するテーマは、人事・組織開発部門にとって重要な領域です。労働環境の改善やダイバーシティの推進、ハラスメント防止、人材育成など、従業員が意欲的に働ける環境をいかに構築するかが問われています。

ESG経営を推進する企業の共通点

資本市場や社会から信頼を得ているESG企業には、以下のような共通点があります。

  • 経営トップのコミットメントとパーパスの融合:社会課題の解決を事業の中に落とし込み、企業の存在意義と事業戦略を結びつけています。

  • 透明性の高い継続的な情報開示:非財務情報を重視し、成功事例だけでなく、自社の課題や未達の目標についても開示しています。

  • 重要なステークホルダーである従業員への投資:人を「資本」と位置づけ、人的資本への投資を継続的に行う組織文化を根付かせています。

ESG経営における人的資本の位置づけ

企業価値を左右する要因が、有形資産からブランドや技術、そして人材といった無形資産へと大きくシフトする中で、人材を「資本」と捉えて投資を行う人的資本経営の概念が普及しています。 この人的資本の最大化は、中長期的な企業価値の向上を目指すESG経営とも深く関わっています。ここでは、非財務情報の中心を担う人的資本が、どのように企業の総合的な評価と成長に結びついているのかを解説します。

 

 

ESGと人的資本の連動が重視される背景

ESGと人的資本の連動が重視されている背景には、世界的な開示基準の整備や、非財務情報への関心の高まりがあります。 投資家は、企業がどのように人材を採用・育成し、エンゲージメントを高めているかを、将来の収益性や持続性を判断する材料の一つとして注視しています。情報開示の遅れは、市場における競争力の低下につながる可能性があります。

人的資本経営とESGを連動させる仕組み

人的資本経営とESGの連動は、以下のプロセスを通じて企業価値向上のサイクルを生み出します。

  • 戦略的投資とスキル開発の実行:経営戦略に基づいた人材ポートフォリオを定義し、リスキリングに積極的な投資を行います。

  • 多様性とイノベーションの創出:多様な人材が互いに尊重し合える環境を整備し、既存の枠を超えたイノベーションの土壌を作ります。

  • 社会課題の解決と事業成長の両立:多様な視点を持った人材がパーパスに共鳴し、社会課題の解決を事業に結びつける新しいビジネスを推進します。

非財務情報の可視化が組織にもたらす効果

人材に関する非財務情報を客観的なデータとして把握・開示することは、外部評価の向上だけでなく、内部の組織力強化にも効果があります。 データを定点観測することで組織のボトルネックが明確になり、人事施策の改善サイクルを回すことが可能になります。また、透明性の高い情報開示は、社会的なスタンスを重視する若手層など、優秀な人材を獲得する採用市場においても有力な材料となります。

 

 

ESG経営を組織に浸透させる上での課題

ESG経営の重要性は理解していても、それを実際の組織文化として根付かせ、日々の業務レベルにまで浸透させるプロセスには、多くの企業が共通して直面する壁があります。 トップダウンの号令だけでは現場は動かず、かといってボトムアップのみでは全体最適が図れません。ここでは、組織開発や人事担当者が直面しやすい代表的な課題と、その構造的な原因について見ていきます。

抽象的な目標設定と、自社の現状把握の難しさ

気候変動や人権といったテーマは非常に大きな課題であり、具体的に何をKPIとして設定すべきかが曖昧になりがちです。 また、「現状、自社はどの程度できているのか」を客観的に評価する基準が不足しているため、効果的なロードマップを描けないケースもあります。特に従業員のモチベーションなど目に見えない「S」の領域においては、この現状把握の難しさが顕著に表れます。

 

 

経営層が描くビジョンと、現場の意識の乖離

トップが立派なビジョンを発表しても、現場には「業務が増えるだけ」と受け止められるケースがあります。 この乖離は、ビジョンが従業員個人の日々の業務に翻訳されていないことに起因します。「なぜ自分がこれをやる必要があるのか」という腹落ち感を醸成しなければ、組織全体が同じ方向を向いて進むことは困難です。

長期的な投資と短期的なリターンのバランス

ESG経営を組織内に浸透させる上で難しいのが、時間軸の調整です。環境対応や人的資本への投資は短期的なコスト増となる一方で、市場からは四半期ごとの業績成長も求められます。 この「長期的な価値創造」と「短期的な業績達成」のトレードオフをどう取るかが重要です。そのためには、明確な評価基準やインセンティブ設計も必要になります。

ESG経営におけるエンゲージメントの役割

組織内の分断や課題を乗り越え、ESG経営を現場で機能させる上で重要となるのが、従業員と組織の強い結びつきです。 近年、この文脈において「エンゲージメント」という概念が重要な役割を果たすことが明らかになってきました。ここでは、従業員の意識改革と組織風土の変革を通じてどのように企業価値の向上につなげていくのかを解説します。

 

 

従業員エンゲージメントと「S(社会)」の関係

エンゲージメントの高い組織は、社会課題に主体的に取り組むための基盤となります。従業員が会社に対して信頼感を持っていなければ、高い社会的な目標に対して本気で取り組むことは期待しにくくなります。 心理的安全性が確保された環境であれば、従業員は意見を出しやすくなり、組織の改善にもつながります。エンゲージメントスコアは、組織の健康状態を示す重要な非財務指標の一つとしても活用できます。

エンゲージメントを高める組織づくり

従業員エンゲージメントを向上させるためには、組織の風土づくりが必要です。具体的には以下のようなアプローチが有効です。

  • 心理的安全性の確保と対話の促進:多様な意見が受容され、失敗を恐れずに挑戦できる環境を構築し、フラットなコミュニケーションの場を設けます。

  • 公正で透明性のある評価・処遇の徹底:能力と成果に基づいた公平な評価制度を運用し、組織に対する信頼感を醸成します。

  • 柔軟な働き方の提供と自律的なキャリア支援:個々のライフステージに合わせた働き方を認め、従業員自身が主体的にキャリアを考えられる仕組みを提供します。

従業員個人の働きがいと企業のパーパスを結びつける

企業が掲げるパーパスと、従業員個人の仕事のやりがいを結びつける取り組みも不可欠です。 ワークショップなどを通じて、自社の事業がどのように社会課題の解決につながっているのかを、日常業務レベルに落とし込んで議論する場が必要です。自身の業務がより良い社会づくりに結びついているという実感を持てた時、従業員のモチベーションは高まりやすくなります。

人事・組織開発が担うESG経営の実践ポイント

持続的な成長を実現するためには、人気が従来の「管理部門」から、戦略的に企業価値を創出する「価値創造部門」へと変革を遂げる必要があります。 現場の最前線で組織と人に向き合う人事・組織開発担当者は、具体的にどのようなアクションを起こすべきでしょうか。ここでは、特に重要度が高く、外部からの評価にも関わりやすい3つの実践的なアプローチについて解説します。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

単なる数値目標の達成にとどまらず、真の意味でのD&Iを組織に定着させることが不可欠です。多様な人材を採用するだけでなく、その多様な価値観を組織の意思決定プロセスに組み込み、活かしきる仕組みづくりが問われます。 アンコンシャス・バイアスを取り除く研修や、柔軟な人事制度の構築により、同質的な組織の硬直化を防ぎ、イノベーションを持続的に生み出す土壌を整えることができます。

健康経営とウェルビーイングの推進

従業員の心身の健康を経営的な視点で支える「健康経営」と、より広義な「ウェルビーイング」の実現は、「S(社会)」評価の根幹を成す要素です。 法令遵守レベルから一歩踏み込み、従業員が安心して働き続けられる環境を整えることが必要です。

領域 具体的な実践施策の例 期待される組織への効果
身体的健康の増進 運動習慣の支援・健康的な社食の提供 アブセンティズムの低下・医療費削減
メンタルヘルスのケア 専門カウンセラーによるEAP・マインドフルネス研修 休職率の低下・心理的安全性の向上
社会的ウェルビーイング ボランティア休暇制度・社内コミュニティへの活動費助成 ネットワーク強化・新たな視点の獲得

人的資本を継続的に測定する仕組み

様々な施策が本当に効果を上げているのかを検証するため、人的資本に関するデータを収集・分析し、客観的な指標に基づいてモニタリングする体制の構築が必要です。 離職率や労働時間といったハードデータに加え、エンゲージメントスコアなどのソフトデータを定期的に測定することで、組織の微細な変化を早期に察知することが可能になります。

人的資本を見える化し、企業価値を高めるために

持続的な企業価値の向上に向けて、組織の現状を正確に把握し、人的資本の価値を最大限に引き出すためには、具体的なアクションが必要です。 その有効な方法の一つが、従業員のリアルな声を集め、組織の健康状態をデータとして可視化するアプローチです。 ここでは、データに基づいた経営戦略や人事施策の実行をサポートするサービスについてご紹介します。

従業員の声を把握することから始める

組織変革の第一歩は、従業員が何に不満を感じ、何にやりがいを見出しているのかという「本音」を正確に把握することから始まります。 しかし、社内の人事部門が直接ヒアリングを行っても、真実の声を拾い上げることは容易ではありません。客観性と匿名性が担保された仕組みを通じて、見えない課題を表面化させることが、実効性の高い施策を立案するための前提となります。

■組織の現状と課題を可視化する従業員満足度調査「ASQ」

従業員の本音を正確にすくい上げ、組織の現状を客観的に可視化するためのツールが、アスマークの従業員満足度調査サービス「ASQ」です。 ASQは、従業員満足度やエンゲージメントに関わる要素を測定し、定量的なデータとして提示します。「経営への信頼」や「仕事のやりがい」など、多岐にわたる項目から組織の強みと弱みを明確にし、優先すべき改善ポイントを特定します。 ESG経営や人的資本経営を進める上では、従業員に関する取り組みを感覚的に捉えるのではなく、データに基づいて現状を把握し、改善につなげていくことが重要です。ASQは、その第一歩となる組織状態の可視化を支援します。

 

さいごに

企業の持続的な成長を左右する重要な要素の一つが、「人」です。 財務諸表には表れない組織の力や従業員の意欲をいかに引き出し、それを社会への価値提供へとつなげていくか。人事・組織開発に携わる部門には、これからの企業価値向上を支える重要な役割が求められています。 まずは、自社の現在地を正しく知るための一歩として、ASQを活用した客観的なデータに基づく組織状態の可視化を検討してみてはいかがでしょうか。

執筆者

Humap編集局

株式会社アスマーク マーケティング・CSチーム運営

Humap(ヒューマップ)編集局は、従業員1万人規模の独自調査や、CS活動を通じて寄せられる「現場のリアルな悩み」に基づき、ハラスメント・エンゲージメント・働き方改革といった組織課題解決のための知見を発信する専門組織です。
単なる用語の解説に留まらず「改善につなげる具体的な手法」や「取り組みのコツ」など明日から自社で活用できる、実践的なコンテンツを企画・制作しています。

【活動の実績】
ハラスメント・エンゲージメント・働き方改革に関する知見発信において、自社登壇セミナー開催数は累計320回、申込者数は23,000人を突破。関連資料の利用者は17,000人以上。(※2026年現在)

【受賞歴・社会活動】
・SUCCESS STORY AWARD 2025 アワード受賞(座席管理ツール「せきなび」) 受賞詳細:https://digi-mado.jp/success-story-award-2025/sekinavi/

【学術・教育支援】
大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000018991.html

監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)
株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー

リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。従業員満足度調査「ASQ」のサービス立ち上げに参画し、業界比較分析も起案。人材コンサル会社と協力し「やりっぱなしで終わらせず、改善できるES調査」の開発を主導。

本記事の監修にあたって: 自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

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