人的資本開示とは?開示事項の6分野を分かりやすく解説

この記事を読む方の中には

「人的資本開示とは?いつから何を開示すればよい?」とお悩みの方がいるのではないでしょうか。

 

そこで今回は、人的資本と有価証券報告書へ開示する項目についてご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

人的資本開示とは?

「人的資本」とは、人が持つスキル・保有資格などを物や金銭と同じく「資本」とみなす考え方のことです。2023年1月31日付で「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正が施行され、2023年3月31日決算以降、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されました。対象企業は、金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業です。早くから環境・社会問題に関心が強かったヨーロッパでは2014年から、アメリカは2020年から既に人的資本開示が義務化されています。

 

人的資本開示の義務化の背景

人的資本開示の義務化の背景には、ステークホルダーの関心があります。近年の技術革新に伴い、幅広い業務がシステム化されたことで、スキル・アイデアなど無形固定資産が企業価値を左右するものとして注目を集めています。

 

また近年、投資の指標として、環境・社会問題に取り組む企業へ投資する「ESG投資」や、SDGsに取り組む企業へ投資する傾向が高まっています。投資・取引など、企業価値の判断材料として人的資本開示が求められているため、開示が義務化されました。

人的資本開示のメリットとデメリット

企業が人的資本を開示するメリットは、「ブランディングにつながる」「人材戦略に効果的」「ステークホルダーと対話ができる」点です。人的資本を開示しておくと、企業の成長に与える影響を可視化できるうえに、企業イメージを広く知ってもらえます。企業イメージの周知は、ステークホルダーからのフィードバック・採用活動のミスマッチ防止に効果的です。

 

一方、デメリットは、「コストや時間がかかる」点です。

人的資本経営をするには、人材育成や組織文化の強化など費用がかかります。またこれらの施策は準備にも時間がかかる上、実施後すぐ効果が出るものではありません。そのため中長期的な視点での取り組みが必要となります。

開示の義務化5項目と開示を期待される6分野について

人的資本に関して、有価証券報告書への記載が義務化された項目及び開示を推奨する事項についてご紹介します。

開示が義務化される5項目

金融庁金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告を踏まえて、2023年3月から有価証券報告書への記載が義務化される人的資本情報は5項目です。

 

  1. ①女性管理職比率
  2. ②男性の育児休業取得率
  3. ③男女間賃金格差
  4. ④人材育成の方針
  5. ⑤社内環境整備の方針

 

4、5については、人材の多様性の確保を含む内容として、方針の指標を含めて記載が求められています。

参考:厚生労働省 令和3年度雇用均等基本調査

開示が期待される6分野

「人」に関連する情報について、国内外の様々な任意の開示基準において開示事項が設定されています。

2022年8月に日本政府が発表した「人的資本可視化指針」では、比較可能性の観点から開示が期待される事項として6分野が示されています。

 

  • 人材育成
  • 従業員エンゲージメント
  • 流動性
  • ダイバーシティ
  • 健康・安全
  • 労働慣行・コンプライアンス

 

次項から各分野の開示項目事例をご紹介します。

人材育成

人材育成の項目では、リーダーシップ・育成・スキル/経験等についての開示が求められます具体的な開示項目例は、研修時間・研修費用・研修参加率など定量的な情報と、人材育成方針・社内環境整備方針など定性的な情報です。

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントとは、仕事内容・働き方・労働環境等に満足しているかを測定する項目です。eNPS(従業員ネットプロモータースコア)や継続勤務意向・総合満足度などがあります。

開示が義務化されている人材育成方針や社内環境整備方針の指標と併せて開示することが期待されています。

 

流動性

流動性は、人材確保・定着度の指標です。具体的な項目例は、離職率・定着率・採用や離職にともなうコスト・後継者育成計画・求人ポジションの採用充足に必要な期間などがあります。

 

後継者育成計画は、重要なポジションの内部昇格率(後継者有効率)・リーダーポジションに対する後継者数の割合(後継者カバー率)・期間ごとに後継者を準備できるポジションの割合(後継者準備率)の3項目が主な例です。

ダイバーシティ

ダイバーシティとは、多様性のことです。多様性に関する事項は、義務化されている女性管理職比率・男性育休取得率・男女間賃金格差のほかに、正社員・非正規社員の福利厚生の差や、育児休業等の後の復職率・定着率等の例があげられています。

健康・安全

健康・安全に関する開示項目は、労働災害関連の項目・安全に関する取り組みに関する事項があります。労災関連では、発生件数・割合、労災による死亡率・労災による損失時間などが例としてあげられています。安全に関する取り組みは、医療・ヘルスケアサービスの利用範囲や、安全衛生に関する研修を受講した従業員の割合などがあげられます。

コンプライアンス・労働慣行

コンプライアンスは、法令に従い企業活動ができているかを指す項目。
労働慣行とは、就業規則など明確な根拠はないものの、長年の慣習や黙認によって使用者と労働者の双方に浸透しているきまりをいいます。
具体的には、苦情件数・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合・児童労働や強制労働に関する説明・懲戒処分の件数・団体労働協定の対象となる従業員の割合等があげられています。

 

人的資本開示に向けて

人的資本開示に向けて、社内で準備しておくと良い項目を2点ご紹介します。

社内制度の整理・課題の発見

人的資産を開示する場合は、方法・内容によりリスクとなりかねません。そこで、現状を整理し、課題を発見しておくことが重要です。情報開示の際は、課題改善プロセス・改善結果を定量的に開示することで、企業努力が見られて優位性が見えやすいでしょう。

従業員アンケートで満足度向上につなげる

従業員アンケートは、有価証券報告書への記載を推奨する項目です。また、調査結果を踏まえ改善施策にも活用できます。そのため、アンケート・課題抽出・施策・アンケートというサイクルで、定期的にアンケートを実施するのが重要です。

 

従業員満足度調査「ASQ」

アスマークの「ASQ」は、提言施策付きの従業員満足度調査サービスです。主な特徴は3点です。

 

  • ベンチマークデータと比較が可能
  • 調査結果を数値・グラフなどを駆使した見やすいレポート形式で納品
  • 施策提言付き

 

自社保有のベンチマークデータを元に結果を分析し、「満足度・離職意向と相関性の高い要素ランキング」など、従業員満足度をグラフ・数値により可視化できるので、そのまま開示に活かしやすいレポートとなっています。また、施策提言付きで改善策を早く実行へ移せます。改善プロセスを開示することで、企業イメージ貢献・従業員満足度向上に貢献可能です。

 

人的資本開示は、義務化だから実施するだけでなく、日常的に働きやすさを改善できる機会となります。人的資本開示の準備として、従業員アンケートから実施してみてはいかがでしょうか。


執筆者

Humap編集局

株式会社アスマーク 経営企画部 Humap事業G

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