かつては育児休暇を取るのは女性に限られていましたが、ここ数年の間で、育児のために育児休暇や時短勤務を選択する男性が増えてきています。その一方で、職場の上司や同僚が育児休暇や時短勤務を取得しようとすることを拒む、あるいは、実際に育児休暇や時短勤務を行っている男性に対して嫌がらせをする行為がみられるようになりました。
このように、男性が育児に参加するためにフルタイムから働き方を変える(あるいは休暇を取得する)ことを上司や同僚が阻む行為を、父性を意味する「パタニティ(paternity)」と、嫌がらせを意味する「ハラスメント(harassment)」を組み合わせて「パタニティハラスメント(以下、パタハラと表記)」といいます。
女性の社会進出が進み、育児を経験した女性が仕事に復帰することはごく一般的なことになってきました。少子高齢化や出生率の減少している現状では、働きながら子供が育てやすい社会環境が構築されなければいけないでしょう。女性だけが育児と仕事の両方を担うのではなく、仕事中心だった男性に対して主体的な育児への参加が求められています。また、育児に対して積極的な意識を持った男性も増えてきました。
こうした状況から男性の育児休業制度に関する整備は進んできています。しかし、制度は存在していてもそれを活用する社員がいなければ、全く意味がありません。各企業に男性が利用できる育児休業制度が存在していたとしても、周囲がそれに対して理解せず、不快感・抵抗を示すため、実際に活用できないという「障壁」となっています。厚生労働省の資料によると、育児休業取得率は、女性は8割台で推移している一方、男性は上昇傾向にあるものの女性に比べかなり低い水準となっています(令和2年度:12.65%)。
育児休業制度を活用しようとする男性が、「代替となる要員がいない」「育休中は無給なので経済的な負担がある」「上司に理解がない(ように見える)」などといったネガティブな認識を持っているのではないかと推察します。
2020年の厚生労働省による調査によると、育休制度などを利用しようとした男性の26.2%が職場で「パタハラ」を受けていたことが判明し、そのうちの66.4%は「上司」によるものです。
パタハラの具体的な内容としては、半数以上が「上司による、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」で、少数ではあるが「降格や解雇・雇い止め」されたケースも確認されています。
出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(P140-143)
「育児休業」や「育児を目的とした短時間勤務制度」などを定めた育児・介護休業法は、「日雇い労働者ではない」労働者が対象なので、女性社員だけではなく男性社員も対象に含まれます。パタハラは育児介護休業法に違反する行為です。育児・介護休業法では、以下の「不利益な取り扱い」をすることが禁止されています。
育児・介護休業法は2022年4月1日に施行・改正され、性別に関係なく仕事と育児を両立できるように、雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置などが義務化されます。また、同年10月1日には「産後パパ育休(出生時育児休業)」が施行されます。これまでの育児休業は、原則として子どもが1歳(最長2歳)になるまでの間に、1回の育児休業の取得が可能でした。しかし、産後パパ育休制度は、左記に加えて子の出生後8週間以内に4週間まで取得することが可能となります。(最大2回に分割して取得可)
さらに、制度を設けるだけではなく、2023年4月1日からは従業員数1,000人超の企業は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等及び育児目的休暇の取得率」の公表が義務づけられます。
出産・育児・介護などによって、これまでと同様の働き方ができなくなった従業員の就業を支えるための環境を企業側で整備することが、働きやすい社会をつくることにつながります。パタハラが発生する企業においては、貴重な人材が流出するリスクにつながります。法改正内容もふまえた対策を実施していくことが重要ではないかと思います。
代表取締役 永見 昌彦
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