派遣を採用している企業では、派遣社員に残業を依頼したいとき、「残業の指示を出しても問題ないか」と質問を受けることはありませんか。今回は、派遣社員への残業指示に関するルールと、労働基準法第36条に基づく36協定について解説します。適切な運用のために、ぜひ参考にしてみてください。
派遣先企業から派遣社員に対して残業を依頼することは可能です。ただし、いくつか条件があるため、その点を正しく理解することが大切です。ここでは、派遣社員に残業を依頼できる条件と、依頼を断ることができるケースについて解説します。
派遣社員に残業を依頼するには、次の条件を満たしている必要があります。
36協定は、派遣元企業と派遣社員の間で締結されるものであり、派遣先企業が直接締結するものではありません。また、労働条件通知書は、派遣元企業と派遣社員が労働条件に合意したことを証明する書類で、派遣先企業名や就業時間などの労働条件が記載されます。
派遣先企業は、上記の3点が適用されている場合に限り、派遣社員へ残業を依頼することが可能です。
上記の条件を満たしている場合、原則として派遣社員は残業指示を断ることができません。
ただし、以下のような場合には派遣社員が残業を拒否することも認められます。
派遣先企業は、派遣社員の労働時間を適切に管理し、無理な残業を強制しないように配慮する必要があります。
複数の企業で勤務している派遣社員に残業を依頼する場合は、すべての企業での労働時間を通算して残業時間を計算する必要があります。
勤務時間の例
・1日の勤務時間がA社では6時間、B社では3時間
・合計労働時間:9時間
労働基準法では、1日あたりの法定労働時間の上限は8時間と定められています。そのため、上記のケースでは、8時間を超えた1時間分が残業時間となります。
派遣先企業は、派遣社員に残業を依頼する際、他の勤務先での労働時間も考慮した上で指示を出すことが求められます。
派遣サービスを適切に活用するためには、窓口となる人事担当者や派遣スタッフとともに働く社員が派遣労働に関するルールや制約をしっかりと理解し、法的リスクを回避することが重要です。こちらの資料もぜひ参考にしてください。
派遣社員に残業を指示する際は、派遣元の36協定の締結が必要です。ここでは、36協定の概要について解説します。
36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条に基づく労使協定のことを指します。原則として、労働基準法では1日8時間、週40時間を超える労働は禁止されています。しかし、業務の都合上、時間外労働が必要な場合は、過半数の労働者の代表または労働組合と書面で協定を締結することで、時間外労働を合法的に行うことが可能となります。
36協定には、次の内容を記載する必要があります。
また、業務の繁忙期など特定の期間のみの場合は、特別条項付きの36協定を締結することも可能です。特別条項付きの場合、月100時間未満・年間720時間以内の時間外労働が認められます。
ただし、以下の制限が適用されるため注意が必要です。
派遣社員と雇用契約を結び、給与を支払うのは派遣元企業であるため、36協定の締結は派遣元企業と派遣社員の間で行われます。派遣先企業は、勤務予定の派遣社員が36協定を締結しているかどうかを事前に確認することが必要です。
36協定に違反した場合、労働基準法違反として6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。特に、派遣先企業が違反となる残業指示を出した場合、その責任を問われることになるため、担当者は派遣社員の勤務時間には注意しましょう。ただし、派遣元企業の管理責任が問われるケースもあるため、両者の適切な管理が求められます。
派遣社員に残業を依頼する際は、適正な残業代の支払いが求められます。ここでは、労働時間の考え方と、具体的な残業代の計算方法について解説します。
残業代の計算には、労働時間と休日の区分について理解しておく必要があります。労働時間には以下の2種類があります。
所定労働時間:
・就業規則で決めた勤務時間
・8時間の企業もあれば6時間の企業もある
法定労働時間:
・労働基準法32条で決められた労働時間
・原則として1日8時間または週40時間
また、休日にも以下の2種類があります。
法定休日:
・労働基準法第35条に基づき、週1回かつ4週4休以上の休日を確保する
・休日を何曜日に設定するかの定めはない
法定外休日(所定休日):
・就業規則で定められた休日
・土曜日、創立記念日など
派遣社員の場合は、労働条件通知書で取り交わした労働時間と休日に基づいて勤務します。
派遣社員の給与形態は時給制が一般的です。残業時の賃金は、原則として1分単位で、次のような計算式で算出されます。
法定労働時間内の残業
・計算式:残業時間×時給
・例:時給2,000円の派遣社員が1時間残業した場合、2,000円×1時間=2,000円
法定労働時間外の残業
・計算式:残業時間×時給×割増率
・割増率:25%(1.25倍)
・例:時給2,000円の派遣社員が法定労働時間(8時間)を超えて1時間残業した場合、2,000円×1時間×1.25=2,500円
次の例で残業代を計算してみましょう。
・時給:2,000円
・所定労働時間:8時~15時(休憩12~13時)
・ある1日の勤務時間:8時~18時まで(休憩12~13時)
【残業代】
・法定労働時間内の残業(15~17時):2,000円×2時間=4,000円
・法定労働時間外の残業(17~18時):2,000円×1時間×1.25=2,500円
この日の残業代は、4,000+2,500=6,500円
法定労働時間を超える残業、休日や深夜出勤には、割増率が掛かります。割増率は次のとおりです。
勤務の状況に応じて割増率を合算して残業代を算出します。2つのケース別に割増率の例を見てみましょう。
ケース①:日中勤務(所定勤務9~18時、法定休日:日曜日)
ケース②:深夜勤務(所定勤務21時~翌6時、法定休日:日曜日)
このように、勤務時間や勤務日によって割増率が変動するため、正確に計算するよう注意が必要です。
派遣社員の残業時に発生する派遣料についても、契約の段階で取り決めが必要です。派遣契約の際に、以下のような点を明確にしておくことが重要です。
派遣契約では、あらかじめ「残業時間を見込んだ固定派遣料」とすることも可能ですが、実際の労働時間に応じた計算方式が一般的です。契約締結時に条件を明確にし、トラブルを防止しましょう。
派遣元企業と派遣社員との間で36協定を締結していない場合や、36協定の範囲外の残業指示はできません。特に、時短勤務者の場合などは、36協定を締結していない可能性があるため、注意が必要です。
派遣先企業には、派遣社員の労働時間・休憩・休日の管理を行う責任があります。さらに、2ヵ所以上で勤務する派遣社員の場合は、通算労働時間を考慮する必要があるため、適切な管理が求められます。
派遣社員の残業時間を適切に管理することは、企業全体の生産性向上にもつながります。しかし、派遣社員の管理を徹底するだけでは根本的な解決にならず、残業が発生しやすい職場環境そのものを見直すことが必要なケースもあります。
職場全体で長時間残業が常態化している場合、その原因と対策を考えて改善することが、業務効率化やコスト削減に効果を発揮することもあります。慢性化した残業にお悩みの方は、ぜひこちらの資料も参考にしてみてください。
派遣社員が勤務する際、労働条件通知書において残業の有無が明示されています。そのため、派遣先企業は、事前に派遣元企業へ残業の見込みや時間・時期などを伝えておくとスムーズです。
急な残業を依頼したい場合においても、派遣元企業および派遣社員に事前に伝えることで、トラブルを防ぐことができます。派遣先企業が事前の調整を怠ると、派遣社員の勤務スケジュールに支障をきたし、労働環境の悪化につながる可能性もあるため、適切なコミュニケーションを取り、スムーズな運用を心掛けましょう。
派遣社員の適切な残業管理は、企業の生産性向上や労務リスクの軽減につながります。しかし、実際の運用では、業務量の波に対応できる柔軟な人材確保が課題となることも少なくありません。
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