パートナーシップ制度とは?LGBTQ+フレンドリーな環境を整えるための取り組みを紹介

パートナーシップ制度の導入を検討しているものの、「具体的に何をすればよいか分からない」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
今回は、パートナーシップ制度の概要や導入のポイントについて解説します。ぜひ参考にしてください。

パートナーシップ制度とは

パートナーシップ制度とは、自治体がLGBTQ+のカップルに対し証明書を発行することで、婚姻関係に近いサービスを受けられる制度です。
日本では、同性婚が法的に認められていません(2025年3月現在)。同性カップルは「事実婚」という形で生活することが一般的ですが、事実婚では家族手当や医療機関での対応が異なる場合があります。こうした状況を踏まえ、ジェンダー平等の観点から制度が導入されました。
日本でのパートナーシップ制度は、2015年に東京都渋谷区が「パートナーシップ証明書」を発行する条例を制定したことがはじまりです。

参考:東京都パートナーシップ宣誓制度

 

同性婚との違い

同性婚は法的に認められた婚姻の形であり、相続や子どもの親権などの権利も保障されます。一方、パートナーシップ制度には法的効力がなく、自治体ごとに家族に準じたサービスを提供する条例を制定しています。

日本のパートナーシップ制度

2025年3月1日時点で、日本では少なくとも488の自治体がパートナーシップ制度を導入しており、人口カバー率は90%を超えました。また、多くの自治体では「パートナーシップ宣誓」と呼ばれ、パートナー関係にある2人が宣誓に必要な書類を提出し、自治体が確認の証明書を発行する形式を採用しています。

 

証明書を持っていてもできないこと

  • 法定相続人としての権利
  • 成年後見人の申し立て
  • 共同親権の取得
  • 健康保険や厚生年金の扶養対象
  • 所得税や住民税の配偶者控除
  • 名字の変更

社会保険制度や税制は国が定めるものであるため、パートナーシップ制度だけでは扶養や控除の対象にはなりません。苗字の変更についても家庭裁判所の許可が必要です。

参考:公益社団法人Marriage For All Japan「日本のパートナーシップ制度」

 

諸外国の現状

同性婚が認められている国がある一方で、LGBTQ+の権利が厳しく制限されている国も存在します。各国の制度や状況は大きく異なり、法的な保護が十分でない場合もあります。

参考:ILGA World Database

 

日本では、同性パートナーに対する理解が進んできた一方で、課題が残る部分もあります。しかし、多くの自治体で制度が整備され、企業にも対応が求められています。

 

LGBTQ+フレンドリー企業とは

LGBTQ+フレンドリー企業とは、性的マイノリティの従業員が働きやすい環境を整える企業を指します。具体的には、ハラスメント防止ための取り組みやガイドラインの作成、福利厚生の適用拡大などが含まれます。

企業の取り組み例① アマゾン

アマゾンでは、次のような取り組みを行っています。

  • アフィニティグループの組織
  • 公平な福利厚生制度
  • ガイドラインの作成と定期研修の実施
  • リーダーによるメッセージの発信
  • 採用担当者の研修、エントリーシートでの配慮

LGBTQIA+の当事者とアライ(支援者)によって構成されるアフィニティグループは、各部門への働きかけやイベントの参加により、さまざまな立場への理解と許容を促進する活動をしています。福利厚生制度では、同性パートナーを持つ社員が、異性パートナーを持つ社員と同様に慶弔手当や赴任手当、家族割などのサービスを受けることができます。
ガイドラインでは、具体的な場面を想定して作成し、当事者の権利を守ることに加えて、同性愛や異性装を禁止する国・地域への赴任・出張リスクに対応する体制を整えています。
また、採用の場面においても配慮がされており、エントリーシートに性別を記載する必要がありません。採用担当者は研修を受け、性自認や性的嗜好を理由とした差別をしないことを学びます。新入社員から管理職まで全社員を対象としたインクルージョン研修も行われています。

参考:アマゾン「多様性のある社会のために、Amazonが日々実践していること」

 

企業の取り組み例② パナソニック

パナソニックグループでは、LGBTQ+の従業員が安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。

  • 人事関連制度の適用範囲拡大
  • 相談窓口の設置
  • 理解促進研修
  • 社内への情報発信、コミュニティ活動
  • 社内ネットワークの構築

2016年4月より慶弔休暇、育児・介護支援、単身赴任手当等の人事関連制度において、法的要件で対象外になるものを除いて同性パートナーにも配偶者に準じた取り扱いをしています。
理解促進研修には、LGBTQ+の人に対する基礎知識に加えて、差別言動への対処方法や当事者ニーズへの対応方法などを盛り込んでいます。
社内イントラネットでは、理解促進のための情報や、当事者である社員を支援するイベントへの参加を呼び掛けるなど発信を行っています。また、「アライになろう」をスローガンに、理解者を増やす取り組みも行っています。同僚や上司が「アライ」として意思表示することで、カミングアウトしやすい環境を目指しています。

参考:パナソニック ホールディングス株式会社_一人ひとりへのサポート:LGBTQ+

 

企業におけるパートナーシップ制度の導入

パートナーシップ制度を導入する際のポイントを解説します。

社内規定と方針の定義

パートナーシップ制度を導入するには、社内の就業規則や制度を明確にし、同性パートナーを対象に含めることが重要です。次のような項目について、規定を見直す必要があります。

  • 配偶者の定義
  • パートナーシップ制度の要件(必要書類など)
  • 社会保険や所得税の対象外となる旨の説明

配偶者は「自治体の証明書を持つ同性パートナー」など、配偶者の定義を明確にします。パートナーシップ制度の適用に必要となる証明書や申請書などの必要書類も決めましょう。社会保険や所得税については、パートナーシップ証明書を持っている場合でも対象外であることは社内規定などに明記します。

相談窓口の整備

相談窓口の設置は、性的マイノリティの従業員が安心して相談できる環境をつくるために欠かせません。具体的には以下のような対応が求められます。

  • 性的マイノリティに精通した担当者の配置:または専用の連絡経路を設ける(外部の専門機関と連携した相談体制の構築)
  • カミングアウトや性表現に関する相談への対応:ハラスメント対応だけでなく、当事者が抱えるさまざまな悩みを受け止める窓口として機能させる
  • 福利厚生制度の整備

    性的マイノリティの従業員や同性パートナーにも適用できるよう福利厚生制度を見直し、次のような対応をすることが推奨されます。

    • 住宅手当や社宅の利用:同性パートナーでも異性婚と同等の待遇を受けられるようにする
    • 慶弔見舞金や慶弔休暇:結婚や不幸があった際に、同性パートナーも対象となるよう明確化する
    • 婚姻の祝い金の支給:同性パートナーとの結婚相当の手続きにも適用できるようにする
    • 家族手当の適用:同性パートナーを家族として扱う手当の整備を行う
    • 治療休暇制度の導入:ジェンダー関連の医療(ホルモン療法や性別適合手術など)が必要となった時に利用できる休暇を設け、制度利用の際は個人情報の保護を徹底する

    職場環境の整備

    性的マイノリティの従業員が働きやすい環境をつくるための取り組みとして、次のような例があげられます。

    • トイレや更衣室の整備:性別を問わず利用できるトイレや更衣室の個別スペースを確保
    • 健康診断の受診体制の見直し:検査着を性別で分けない、選択肢を増やす
    • 通称名の使用を許可:氏名から性別を推測されることを防ぐため、社内システムやメールアドレスで通称名を使用できるようにする

    こうした整備を行う際は、当事者の意見を取り入れることが大切です。

    採用・人事情報管理の見直し

    企業の採用・人事管理においても、性的マイノリティの従業員が安心して働ける環境を整えるための対応を検討します。

    • 知り得た個人情報の管理徹底:カミングアウトの有無に関わらず、従業員の個人情報を適切に管理する
    • 性別を理由とした選考を行わない旨を明文化:履歴書の性別欄を撤廃、または記入自由とする

    面接時性的な質問を避けることも大切です。人事や面接官に説明の場を設けるとよいでしょう。

    パートナーシップへの支援ネットワーク作り

    企業がパートナーシップ制度をより実効性のあるものにするため、以下のような支援ネットワークの構築が有効です。

    • 社内ネットワークの構築:当事者だけでなく、支援者(アライ)を増やすことで、企業全体の意識向上につなげる。
    • 企業間連携の強化:LGBTQ+フレンドリー企業と協力し、ノウハウを共有する
    • 制度を支援する団体・イベントへの参加:LGBTQ+に関する外部団体の活動に協賛・支援することで、社会全体の理解を促進する。

    研修の実施

    企業の対応力を向上させるため、研修を実施することが推奨されます。次のような項目を盛り込むと効果的です。

    • LGBTQ+に関する基礎知識:性的マイノリティの多様なアイデンティティについての理解を深める。
    • ハラスメント防止策の強化:「SOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)」について学び、具体的な対応を検討する。
    • カミングアウトへの適切な対応:従業員がカミングアウトを選択した際の受け止め方や、適切な支援方法を学ぶ。
    • マネジメントにおける配慮:LGBTQ+の従業員を含む環境をどう整えるかを、管理職向けに教育する。

     

    上記のように、LGBTQ+に対する理解を深めるとともに、カミングアウト時など具体的な場面を想定した対応方法を学べるとよいでしょう。当事者の声を反映できる外部機関の講師を招くのも有効な手段です。

    ハラスメント対策の参考資料として、こちらもぜひご利用ください。

     

    パートナーシップ制度の研修には「CHeck」

    パートナーシップ制度を導入するにあたり、企業には従業員の理解促進と、ハラスメント防止策の強化が求められます。

    アスマークが提供するコンプライアンス&ハラスメント対策の総合サービス「CHeck」では、LGBTQ+に関連するハラスメントのリスクや具体的な場面を想定した対応方法などが学べます。当事者が講師を務める研修プランもあり、実体験に基づいた講義を受講することが可能です。

    企業として、多様性を尊重する環境を整えるために、ぜひ活用をご検討ください。

    執筆者

    Humap編集局

    株式会社アスマーク 営業部 Humap事業G

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