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2026年4月施行の女性活躍推進法改正により、企業に求められる情報開示の範囲と水準が見直されます。とくに従業員数が101人以上の企業では、公表項目の拡充に伴い、対応の重要性が一段と高まることになります。
この記事をご覧の人事担当者の方の中には、「自社は公表義務の対象になるのか」「何を、いつまでに、どのような形で公表すればよいのか」「数値を公表した後、社内でどのように改善につなげるべきか」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
今回の改正は、単なる法令対応にとどまりません。公表された数値は、採用活動や企業イメージ、さらには人的資本開示とも結び付き、社外からの評価に直接影響します。そのため制度の理解とあわせて、開示設計や説明のあり方まで含めた対応が求められます。
今回の改正対応は、人事部門だけで完結するものではありません。賃金データの集計は人事・給与部門、管理職定義の整理は人事制度、公表文面や公表媒体の整備は総務・広報、開示後の説明責任は経営企画や経営層が関与する必要があります。実務上は、部門横断での連携を前提に進めることが不可欠です。
また、改正では、女性活躍の推進にあたり「女性の健康上の特性への配慮」が基本原則として明確に示されました。これは、数値の公表とは別の論点であり、制度設計や職場運営にも影響する重要な要素です。
加えて、女性活躍推進の過程で生じ得る「ハラスメント」への対応も、基本方針の中で明確に位置付けられています。
したがって、今回の改正は「公表項目の対応」にとどまらず、制度設計や運用ルール、職場風土まで含めて見直す契機と捉える必要があります。数値の算出と開示、背景要因の整理、改善施策の実行を一連の流れとして設計することが重要です。
今回の改正は、主に次の3点に整理されます。
これにより、従来は「行動計画の策定」が中心だった企業においても、今後は「数値を把握し、説明可能な形で公表する」ことが前提となります。とくに101~300人規模の企業では、新たに公表体制の整備が必要となるケースが多く見込まれます。
※出典:女性活躍の更なる推進に向けて ―女性活躍推進法改正で何が変わる?
101人以上300人以下の企業では、2026年4月1日以降に終了する最初の事業年度の実績から、「男女間賃金差異」「女性管理職比率」に加え、14項目の中から1項目以上を選択し、合計3項目以上を公表する必要があります。
初回公表の時期は、対象事業年度の終了後、次の事業年度の開始から概ね3か月以内が目安とされています。たとえば、2027年3月末決算の場合は、2027年6月末頃までの公表が想定されます。
企業規模ごとの主な整理は以下のとおりです。
| 企業規模 | 2026年4月以降の主な公表義務 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 301人以上 | 男女賃金差異、女性管理職比率、機会の提供に関する実績1項目以上、両立支援に関する実績1項目以上(計4項目以上) | 公表項目数が増えるため、説明欄を含めた開示設計が重要 |
| 101~300人 | 男女賃金差異、女性管理職比率、選択項目を1つ以上(計3項目以上) | 初めて賃金差異と管理職比率の算出体制を整える企業が多い |
| 100人以下 | 努力義務 | 義務ではないが、採用競争力の観点から任意開示の検討余地がある |
実務では、「どの数値を公表するか」だけでなく、「どの母集団で算出するか」「どのような注記を付すか」といった設計が重要になります。とくに101~300人の企業では、今回の改正により実務負荷が大きく変わるため、早めの体制整備が求められます。
301人以上の企業では、公表項目数の増加に加え、開示内容の質がより重視されます。改正前から義務付けられていた「男女間賃金差異」に加え、新たに「女性管理職比率」が必須項目として追加されます。
さらに、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する実績から1項目以上、「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」に関する実績から1項目以上を公表する必要があり、合計4項目以上の公表が求められます。
重要なのは、公表項目数の増加そのものではなく、「なぜその数値になっているのか」「どのような課題があり、どのような改善を進めているのか」を説明できる状態にしておくことです。数値だけが独り歩きすると、社内外に誤解を招くおそれがあるためです。
男女間賃金差異は、男性労働者の平均賃金に対する女性労働者の平均賃金の割合を示す指標です。公表は「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3区分で行い、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで表示します。
実務上、この指標を「同一労働同一賃金」の問題と混同しないことが重要です。男女間賃金差異は、個々の賃金が違法に差別されているかを直接示すものではなく、職位構成、雇用区分、勤続年数、残業時間の偏りなどを含めた結果として現れる指標です。
そのため、単に算出・公表にとどまらず、数値の背景にある要因を分析し、必要に応じて補足説明を付けることで、社内外に対する説明の精度を高めることが重要です。
女性管理職比率を算出する際の「管理職」は、一般的な社内の肩書すべてを指すわけではありません。厚生労働省の整理では、「課長級」および「課長級より上位の役職(役員を除く)」が対象とされています。一般に「課長代理」や「課長補佐」は課長級に含まれないと解釈されるため、肩書きのみで判断するのではなく、職務内容や責任範囲に基づいて判定する必要があります。
よくある誤解として、「部長職以上」のみを管理職として集計したり、役員を含めてしまったりするケースがあります。このような集計では、他社との比較可能性が損なわれるおそれがあります。
また、女性比率の低さを「候補者がいない」と単純に捉えるのではなく、採用、配置、育成、昇進機会のどの段階に課題があるのかを分解して検討することが重要です。
企業の情報開示は、数値そのものだけでなく、「どのような情報を公開しているか」「説明責任を果たしているか」といった姿勢も含めて評価されます。
したがって、数値が必ずしも高い水準に達していない場合でも、現状認識や課題、改善に向けた取り組みを具体的に示している企業は、一定の信頼を得やすい傾向があります。
一方で、説明がないまま低い数値のみが公表されると、「女性が活躍しにくい企業なのではないか」という印象を与える可能性があります。採用ブランディングの観点では、公表そのものを目的化するのではなく、採用ページや統合報告、人的資本開示との整合性を踏まえて設計することが大切です。
まず整理しておきたいのは、「女性の健康上の特性への配慮」は、特定の企業規模のみに新たに課される独立した義務ではないという点です。改正法では、女性活躍の推進は女性の健康上の特性に留意して行うべきことが、基本原則として明確化されました。
あわせて、事業主行動計画策定指針には、職場における女性の健康上の特性に関する取り組みを行うことが望ましい旨が追記されています。企業規模にかかわらず配慮すべき事項ですが、とくに301人以上の企業では、公表や行動計画の社会的影響が大きいため、より具体的な対応が求められます。
月経、更年期、不妊治療などは、就業継続やキャリア形成に影響を及ぼす可能性がある一方で、非常にプライバシー性の高い領域でもあります。そのため、本人に過度な申告を求めるのではなく、不利益が生じない形で働き続けられる環境を整えることが重要となります。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
健康上の特性への配慮を制度面から検討する際は、生理休暇の設置にとどまらない設計が重要です。労働基準法第68条では、生理日の就業が著しく困難な女性に対する生理休暇が認められていますが、実務ではこれに加えて、通院、治療、検診、不調時の休養などに利用できる柔軟な制度を組み合わせることが有効です。
具体的には、時差出勤、フレックスタイム制、短時間勤務、在宅勤務などを組み合わせることで、実際に利用しやすい制度となります。
また、制度導入後の運用にも注意が必要です。診断書の提出を必須としたり、上司への詳細な申告を求めたりする運用は、利用のハードルを高める要因となり、ハラスメントの温床にもなりかねません。健康情報は機微情報(要配慮個人情報)に該当するため、取得は必要最小限にとどめ、利用目的や取り扱い範囲を明確にすることが求められます。
制度が整備されていても、職場の理解や運用が伴わなければ機能しません。
このような空気がある職場では、制度があっても使われず、形骸化してしまうおそれがあります。
そのため、制度の整備とあわせて、管理職への研修や相談ルートの明確化、利用しやすい職場風土の醸成が欠かせません。制度の存在だけでなく、「安心して使える状態になっているか」という観点で見直しを行うことが重要です。今回の改正は、数値の公表にとどまらず、継続して働ける職場づくりまで視野に入れた対応が求められる点に特徴があります。
女性管理職比率や男女間賃金差異は重要な指標ですが、それだけで現場の納得感や実態を把握できるわけではありません。数値が改善していても、昇進の打診を辞退する社員が多い、育成機会に偏りがある、相談しづらいといった課題が残っている場合、持続的な改善にはつながりにくいといえます。
だからこそ、制度の有無や数値だけでなく、エンゲージメントや心理的安全性、上司との関係性といった定性的な面もあわせて把握する必要があります。
女性活躍を推進する過程では、意図せず別のハラスメントリスクが生じることがあります。たとえば、「女性だから登用されたのではないか」といった言動や、健康上の配慮を理由に昇進機会を制限する扱いは、組織への信頼を損なう要因となります。
今回の改正では、女性活躍推進に関する基本方針の中で、ハラスメント対策の重要性も位置付けられています。数値目標の達成だけを追うのではなく、処遇、評価、日常的なコミュニケーションのあり方まで整えることが不可欠です。
「女性活躍」が逆差別だと誤解される背景には、施策の目的や基準が十分に共有されていないことがあります。本来の目的は、性別による優遇ではなく、機会の偏りや障壁を是正し、誰もが能力を発揮できる環境を整えることにあります。
そのためには、昇進や登用の基準を明確にし、育成機会を公平に設計するとともに、数値目標の意味を社内に丁寧に説明することが重要です。透明性のある運用が、不要な反発や誤解を防ぐことにつながります。
公表する数値は出発点にすぎません。大切なのは、その背景にある職場の実態を可視化し、改善につなげていくことです。
実務では、次の流れで整理すると対応を進めやすくなります。
このように、「算出→分析→改善→検証」というサイクルを継続的に回していくことが、実効性のある取り組みにつながります。
数値の背景にある課題を把握するためには、従業員の声を可視化する取り組みが有効です。
女性管理職比率や男女間賃金差異といった指標だけでは見えにくい、「上司への相談のしやすさ」「制度利用への心理的ハードル」「現場の納得感」といった状態を把握することで、改善の優先順位が明確になります。
たとえば、アスマークの従業員サーベイ「ASQ」は、エンゲージメントや職場環境の状態を可視化する手段の一つとして活用できます。
重要なのはツールの導入そのものではなく、得られたデータをもとに継続的に改善を行うことです。
また、女性活躍推進の過程では、ハラスメントや不公平感といったリスクが顕在化することもあります。こうした実態を把握する手段として、アスマークのコンプライアンス・ハラスメント対策サービス「CHeck」を活用する方法もあります。
制度の認知度や利用意向・利用状況、周囲の受け止め方などを把握するだけでなく、女性活躍推進の妨げとなるようなハラスメントの発生状況や潜在的なリスクを調べることで、組織内の課題を早期に捉え、対策を取ることができます。
最終的に重要なのは、法対応、公表、組織改善が分断されることなく、一連の取り組みとして機能している状態をつくることです。2026年4月施行の改正は、101人以上の企業にとっては「初めて本格的な公表対応が求められる段階」、301人以上の企業にとっては「公表の質と説明責任が問われる段階」への移行といえます。
公表義務への対応だけで終わらせず、数値の背景にある課題を把握し、制度や職場運用の見直しにつなげていくことが、持続的な女性活躍推進の前提となります。
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プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000018991.html
監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)
株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。従業員満足度調査「ASQ」のサービス立ち上げに参画し、業界比較分析も起案。人材コンサル会社と協力し「やりっぱなしで終わらせず、改善できるES調査」の開発を主導。
本記事の監修にあたって: 自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。