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従業員のパフォーマンスが伸び悩んでいる、あるいは優秀な人材が定着せずに離職してしまう。組織運営において、このような課題を抱えている企業は少なくありません。
給与や労働時間などの労働条件を整えることは、従業員が安心して働くための基本です。しかし、働く人の価値観が多様化するなか、条件面の改善だけで一人ひとりのモチベーションや充実感を十分に支えることは難しくなってきています。
そこで人事・組織開発部門が目を向けたいのが、組織の根幹を支える従業員一人ひとりの「幸福度」です。本記事では、従業員の幸福度が意味するものや組織にとっての意義、幸福度の測り方、向上に向けた具体的な対策まで、人的資本経営の観点も交えながら解説します。
組織において幸福度を考える際、それは単なる個人的な気分の良し悪しを指すものではありません。従業員が企業という環境のなかで自らの能力を発揮し、心身ともに健やかで、周囲と良好な関係を築けているか、仕事に充実感を得られているかという、多層的な状態を表します。
幸福度を捉える目的は、単に社員に楽しく働いてもらうことではありません。従業員が力を発揮し続けられる環境を整え、組織の持続的な成長につなげるための一つの指標として活用することにあります。
また、幸福度という指標は、社員が組織に対してどのような認識を持ち、日々の業務にどのような状態で向き合っているかを読み解く手掛かりにもなります。幸福度を高める取り組みは、離職率の低下や生産性の向上につながる可能性があるほか、組織全体に前向きな循環を生み出すきっかけにもなるでしょう。
従業員の幸福度には、さまざまな要素が関係しています。なかでも、組織が把握しておきたい代表的な観点は、大きく分けて次の3つです。
これらは独立したものではなく、互いに影響し合っており、どれか一つが欠けても幸福度は低下しやすくなります。例えば、どれほど給与や福利厚生などの条件が整っていても、職場の人間関係が悪ければ、 精神的な健康が損なわれる可能性があります。 一方、仕事に強いやりがいを感じていても、過重労働によって心身が疲弊していれば、持続的なパフォーマンスは期待できません。
幸福度を構成する要素はこの3つに限定されるものではありませんが、組織には、特定の要素だけを高めるのではなく、従業員が置かれている状況を多面的に捉え、さまざまな要素を包括的に高めるような環境設計が求められます。
従業員満足度と幸福度は、似ているようでいて異なる概念です。従業員満足度は、会社が提供する待遇、制度、福利厚生、職場環境などに対して、従業員がどの程度満足しているかを捉える指標です。
一方、幸福度は、仕事や職場への満足に加え、個人の成長実感や仕事を通じた自己実現、心身の健康などを含む、より広い概念です。満足度が「給与や制度、職場環境に納得しているか」を捉えるのに対し、幸福度は「現在の仕事を通じて充実感を得られているか」「心身ともに良好な状態で働けているか」といった観点も含みます。
待遇や制度などへの満足は、従業員が安心して働くための土台となり、幸福度にも影響します。組織には、従業員満足度と幸福度の違いを理解したうえで、双方を高める取り組みが求められます。
| 比較項目 | 従業員満足度 (ES) | 幸福度 (Employee Happiness) |
|---|---|---|
| 評価の対象 | 会社側が提供する条件・制度 | 個人の心身の状態・成長実感・仕事の意義など |
| 重視する観点 | 待遇や制度、職場環境への満足 | 自己実現、生きがい、活力 |
| 組織での活用 | 不満要因の把握、制度や環境の改善 | 従業員が力を発揮し続けられる環境づくり |
エンゲージメントは、従業員が組織に対して抱く信頼や愛着、貢献意欲を表す概念です。 また、ワークエンゲージメントは、目の前の仕事に対する熱意や活力、没頭を指します。
幸福度は、これらと密接に関係しています。心身ともに良好な状態で、自分の仕事に意義や充実感を持てていれば、仕事に前向きに取り組み、組織に貢献しようという意欲が生まれます。
幸福度は仕事や生活を含む幅広い状態を捉えるのに対し、エンゲージメントは組織との関係、ワークエンゲージメントは仕事に向き合う心理状態に焦点を当てています。組織では、それぞれの違いを踏まえて従業員の状態を把握することが大切です。
グローバル化とテクノロジーの進展によって、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。かつての終身雇用を前提とした一律的な人材管理は限界を迎え、多様な価値観を持つ従業員の意欲や定着を支えることが難しくなってきました。
このような状況で幸福度が注目されているのは、それが福利厚生の一環ではなく、人材が継続的に力を発揮するための要素として再定義されるようになったからです。従業員の幸福度を高めることは、一人ひとりの能力を引き出すだけでなく、組織が変化に適応していくための基盤にもなります。
幸福度が高い状態にある組織では、予期せぬ市場の変化や困難な局面においても、メンバー同士が支え合い、創造的なアイデアや解決策を生み出しやすくなります。
従業員の幸福度に目を向けることは、組織の持続的な成長を支える取り組みの一つといえるでしょう。
人的資本経営とは、人材をコストではなく価値を生み出す資本と捉え、投資を通じてその価値を高めていく経営のあり方です。
従業員の幸福度を高め、能力を発揮できる環境を整えることは、人的資本の価値を高めるうえでも欠かせません。
また、健康経営の観点でも、従業員が心身の健康を維持し、活力を持って働けることは、休職や離職のリスクを抑えるだけでなく、生産性の維持・向上にも関わります。 そのうえで、働きがいや人間関係、成長実感などを含めて捉えることで、従業員と組織の状態をより幅広く把握できます。
幸福度が低下した職場では、さまざまな問題が連鎖的に生じるおそれがあります。従業員が自分は会社から大切にされていないと感じると、モチベーションが下がり、日々の不満が組織への不信感へと発展することもあります。
その結果、離職者が増えれば、採用や教育に追加のコストが発生します。退職者の業務を残った従業員が引き継ぐことで、職場全体の負担が増し、さらなる疲弊や離職を招く可能性もあるでしょう。
幸福度の低下を個人の問題として片づけず、組織の状態を示すサインとして捉えることが大切です。
幸福度の高い組織には、エンゲージメントの向上が期待できます。
従業員が自分らしく働ける環境があれば、会社への信頼も深まりやすくなります。心身ともに良好な状態で、自分の仕事に意義を感じている従業員は、組織の目標を自分ごととして捉え、主体的に行動しやすくなるでしょう。
幸福度の向上は、従業員の意欲や組織への信頼を高め、組織力を支える取り組みの一つといえます。
▼幸福度と組織成果の関係性
幸福度という目に見えない概念を組織のマネジメントに活かすためには、アンケートなどを通じて数値化し、客観的なデータとして把握することが有効です。
ただし、どのような設問を用い、何を指標とするかによって、得られる結果が異なります。幸福度診断では、単に幸福かどうかを尋ねるだけでなく、心身の状態や人間関係、仕事の意義、成長実感など、複数の側面から従業員の状態を捉えることが求められます。
診断を通じて得られた数値は、単なる結果報告ではありません。組織の状態を把握し、改善に向けた施策を考えるための出発点となります。
データを現場の声と照らし合わせることで、これまで見過ごされていた組織の課題を明らかにし、従業員一人ひとりが力を発揮できる環境へと変えていくことが可能になります。
最も基本的な方法は、従業員を対象とした匿名アンケートです。現在の生活や仕事にどの程度満足しているか、職場において自分の強みを活かせているか、仕事に意義を感じているかといった質問を設けます。
また、その時々の感情だけでなく、一定期間を振り返った心理状態を尋ねることもポイントです。「現在」や「最近数週間」など、回答の対象となる期間を明確にすると、回答基準をそろえやすくなります。
さらに、幸福度そのものを尋ねる設問に加え、業務量や上司との関係、評価への納得感、成長機会などを確認することで、スコアの背景にある要因を分析しやすくなります。
また、「今の仕事が好きか」といった主観的な問いだけでなく、組織への推奨度を測る指標であるeNPS(Employee Net Promoter Score)や、継続勤務意向といった指標を組み合わせて確認することも重要です。eNPSは「あなたは、親しい友人や知人に、あなたの職場で働くことを薦めたいと思いますか?」という質問に0~10点で回答してもらい、「推奨者の割合-批判者の割合」で算出します。eNPSとあわせて満足度や継続勤務意向も確認しておくことで、推奨度だけでは捉えきれない組織状態の把握につながります。
弊社の調査データでは、下記のような項目がeNPS強く連動していることが分かっています。この表にある将来の描きやすさである「キャリアパス」や人事制度への納得感等は満足度や定着意向とも深く関係する項目であることが分かっています。

幸福度の測定には、ポジティブ心理学の第一人者マーティン・セリグマンが提唱したPERMAモデルなどのフレームワークも活用できます。
これらの5つの要素を測定することで、自社ではどの領域が強く、どこに課題があるのかを多面的に把握できます。 自社の調査目的に応じて、職場環境や心身の健康、組織への信頼などの項目も組み合わせると、より実態に即した分析が可能になります。
全体スコアだけでなく、部署や年代、勤続年数、役職、職種などの属性ごとに分析することで、課題をより具体的に把握できます。
例えば、若手層で幸福度が低いのか、特定の部署で人間関係のスコアが低いのか。こうしたセグメント分析を行うことで、会社全体という抽象的な問題ではなく、対象を絞った解決策を検討しやすくなります。
幸福度診断を組織改善につなげるには、実施のタイミングや回答環境の整備に加え、調査後のアクションにも細心の注意を払う必要があります。
多くの企業が陥りがちな失敗は、診断結果を確認すること自体が目的になってしまうことです。大切なのは、診断を通じて組織内の課題を把握し、結果をもとに対話や改善を進めることにあります。
診断はあくまで手段であり、本来の目的は、調査結果をもとにした組織の改善です。アンケートの実施後に、データをどのように扱い、どのような施策に落とし込むかまで、一連の流れとして設計しておきましょう。
従業員が、自分たちの回答が職場の改善に活かされていると実感できれば、次回以降の診断にも前向きな姿勢で参加しやすくなり、継続的な改善サイクルにもつながります。
匿名性の確保は、従業員から率直な回答を得るための基本です。人事や直属の上司に回答内容を特定されるのではないかという不安がある限り、従業員は本音を回答しにくくなります。
調査の実施前には、回答データを誰が閲覧するのか、どのように集計するのか、個人の評価には利用しないことなどを明確に伝えましょう。 氏名を取得しない場合でも、部署や役職などの属性を組み合わせると、個人を推測できることがあります。少人数の集団は集計結果を表示しないなど、運用面での配慮も欠かせません。
社内だけで匿名性を担保することが難しい場合は、第三者機関の診断ツールを利用する方法もあります。
幸福度は、業務量や人間関係、組織変更、上司の交代など、さまざまな要因によって 変動します。一度の調査だけで判断せず、四半期ごと、あるいは半年ごとなど、定期的に同じ指標を測定し、変化を追うことが大切です。 定点観測を行うことで、導入した制度や施策が実際に幸福度の向上に寄与したかを、時系列で評価できるようになります。
ただし、調査の頻度が高すぎると従業員の回答負担が増えるため、詳細な調査と設問数を絞った短い調査を組み合わせるなど、自社の目的や運用体制に合った頻度を設定しましょう。
診断結果は、経営層や人事部門だけで保有するのではなく、必要な範囲で従業員にも共有しましょう。全体的な傾向や明らかになった課題、今後の対応方針を伝え、組織がどこを目指しているのかという共通認識を作ります。
結果をもとにワークショップや対話の機会を設け、数値の背景に何があるのか、どのような職場にしていきたいのかを、現場のメンバーと考えることも有効です。
幸福度の土台を整えるには、制度や職場環境の整備が不可欠です。どれほど仕事への意欲が高い従業員であっても、過酷な労働条件や硬直的な制度の中では、幸福を保ち続けることが困難だからです。
制度や環境を整えることは、従業員が安心して働ける土台をつくり、会社との信頼関係を築く第一歩となります。日々の業務負荷が適正化され、働き方の選択肢が広がれば、従業員は仕事と生活のバランスも保ちやすくなります。
個々のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を認めることは、従業員の生活を尊重する姿勢を示すことにもつながります。制度や環境の改善を通じて、従業員が業務に集中しやすい状態を整えます。
制度が整ったあとは、人と人との関係性や、個人の成長という側面にも目を向ける必要があります。 仕事を通じた成長の見通しを持てない状態が続くと、従業員の幸福度は低下しやすくなります。対話やキャリア支援を通じて、仕事に意味を見出し、周囲との関係のなかで成長を実感できる環境を整えましょう。 人間関係は幸福度を支える重要な要素です。互いに認め合い、高め合える関係を構築することは、組織の活力を維持するうえで欠かせません。 また、自分が組織の中でどのように成長し、どのような貢献ができるかを明確にイメージできることは、仕事に前向きに取り組むための原動力となります。
幸福度を向上させる施策のまとめは以下の通りです。
| 対策カテゴリー | 具体的なアクション | 狙い・効果 |
|---|---|---|
| 環境・制度 | 業務量の適正化・柔軟な働き方 | ワークライフバランスの適正化 |
| 健康・職場環境 | 心身の健康支援・心理的安全性の向上 | 不安や孤立感を防ぎ、安心して働ける環境を整える |
| 人間関係・組織風土 | 感謝・承認・1on1・チーム対話 | 相互理解と組織への信頼を高める |
| 成長・自己実現 | キャリア開発・強みを活かす配置 | 成長実感と自己効力感の向上 |
| 理念・仕事の意義 | 顧客・社会への貢献と業務のつながりを伝える | 仕事の意義や貢献実感を高め、主体性を引き出す |
この表を参考に、自社の課題に合った施策から優先的に取り組みましょう。
幸福度向上に向けた取り組みは、一度の施策で成果が出る短期的なプロジェクトではありません。制度や仕組みを導入したあとも、従業員の状態を継続的に確認し、改善を重ねていく必要があります。
成果が表れるまでには時間がかかる場合もありますが、継続して取り組むことで、従業員が安心して働き、力を発揮しやすい 組織へと変わっていきます。 変化を恐れず、常に従業員一人ひとりと向き合い、対話を重ねる姿勢こそが、幸福度を組織の強みとして定着させることにつながります。
診断結果が出たら、数値の高低だけで判断せず、その背景にある原因を掘り下げましょう。 例えば、離職意向が高い場合でも、その原因は一つとは限りません。業務負荷、上司との関係、評価への納得感、成長機会、組織への信頼など、複数の要因が関係している可能性があります。
幸福度とエンゲージメント、従業員満足度、離職意向などを組み合わせて分析することで、どのような要因が従業員の状態に関係しているのかを把握しやすくなります。 自由記述やヒアリング、現場との対話もあわせて行い、数値の背景にある課題を見極めることが大切です。
調査結果を分析する際は、全社の平均スコアだけでなく、項目ごとの評価や項目間の関連性、過去の調査からの変化にも目を向けます。 例えば、「上昇志向が強いが、人間関係が希薄な傾向がある」「安定感はあるものの、新しいことに挑戦する意欲が低い」といった特徴を把握できれば、自社に合った施策を検討しやすくなります。
また、外部のベンチマークデータと比較することで、自社のスコアが相対的にどの位置にあるのかを確認できます。 他社との比較は、自社内の分析だけでは気づきにくい強みや課題を把握する手掛かりとなるでしょう。業種や企業規模、職種構成などの違いも踏まえながら、自社の状態を客観的に理解することがポイントです。
調査によって複数の課題が見つかっても、すべてに同時に対応することは現実的ではありません。幸福度に関係する課題は多岐にわたるため、多くの対策を同時に進めると、担当者や現場の負担が大きくなり、取り組みが形骸化するおそれもあります。
そのため、課題の影響度や緊急度、実行のしやすさなどを整理し、優先順位をつけることが大切です。自社だけで調査設計や分析を行うことが難しい場合は、第三者機関の活用も検討するとよいでしょう。 例えば、アスマークが提供する従業員満足度調査「ASQ」では、組織・リーダー・社員を独自ロジックでタイプ別に分類し、離職意向などを多面的に分析します。さらに、幅広い業種のベンチマークデータとの比較を通じて、自社の立ち位置や強み・弱み、抱えている課題を把握できます。 会社の環境や制度への満足度の項目はもちろん、従業員の貢献実感や評価納得、キャリアパスへの実感値を可視化することが可能です。 グラフやポートフォリオで改善点を可視化し、分析結果に基づく施策の方向性まで提示する点も特徴です。
施策提言まで込みの
真に役立つES調査パッケージ
まずは調査を通じて従業員や組織の現状を把握し、データに基づいた施策を継続的に実行することが、幸福度向上への第一歩となります。 従業員一人ひとりが心身ともに健やかに働き、仕事の意義や成長を実感できる職場を目指して、組織の課題に合った改善を進めてみてはいかがでしょうか。

株式会社アスマーク マーケティング・CSチーム運営
【活動の実績】
ハラスメント・エンゲージメント・働き方改革に関する知見発信において、自社登壇セミナー開催数は累計320回、申込者数は23,000人を突破。関連資料の利用者は17,000人以上。(※2026年現在)
【受賞歴・社会活動】
・SUCCESS STORY AWARD 2025 アワード受賞(座席管理ツール「せきなび」) 受賞詳細:https://digi-mado.jp/success-story-award-2025/sekinavi/
【学術・教育支援】
大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000018991.html
監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)
株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。従業員満足度調査「ASQ」のサービス立ち上げに参画し、業界比較分析も起案。人材コンサル会社と協力し「やりっぱなしで終わらせず、改善できるES調査」の開発を主導。
本記事の監修にあたって: 自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

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