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この記事をご覧の人事担当者の中には、DXの推進や業務効率化を進める中で、「ITに不慣れな社員への関わり方」や「指導の中でハラスメントが発生していないかを把握する仕組みがない」といった課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。
実際の現場では、「教育のつもりだった」「効率化のために必要だった」という認識のもとで行われた言動で、相手が萎縮してしまうケースが増えています。
テクハラは明確な悪意がなくても発生するため、問題として認識されないまま関係性が悪化するケースも少なくありません。特に現在は、「効率化」や「DX推進」といった正統性の高い目的があることで、言動が正当化されやすく、問題が潜在化しやすい状況にあります。
本記事では、テクハラの正体を整理したうえで、現場で起きている具体的な状況と、人事として取るべき対策を実務目線で解説します。
テクハラ(テクノロジーハラスメント)とは、ITスキルやデジタル知識の差を背景に、相手の尊厳や就業環境を損なう言動を指します。 たとえば、「それくらい自分で調べて」「まだ使えないの?」といった発言は、業務指導の範囲を超え、心理的な圧力として作用します。
テクハラは法令上の明確な用語ではありませんが、「労働施策総合推進法」におけるパワーハラスメントの定義(優越的な関係を背景とした言動)に照らすと、該当するケースは少なくありません。 特に、ITスキルが業務の前提となる職場では、教える側と教わる側の前提が食い違いやすく、そのズレが摩擦を生みます。問題は「スキル差」そのものではなく、「その差に対する関わり方」にあります。
現場では、「業務上必要な指導」と「行き過ぎた言動」の境界が曖昧になりがちです。
この判断を現場任せにすると、対応が属人化し、同じ事象でも扱いが異なるといった問題が生じます。人事が基準を明確にすることで、対応の一貫性が担保され、トラブルの拡大を防ぐことができます。
「ITに不慣れな社員」を個人の問題として扱うだけでは、状況は改善しません。 教える仕組みやフォロー体制が整備されていなければ、同様の問題は繰り返し発生します。テクハラは個人の能力差ではなく、組織設計の問題として見直す必要があります。
テクハラが発生する背景には、特定の個人の性格ではなく、「前提のズレ」があります。特に、デジタルツールに触れてきた経験の差は、世代によっても生じやすく、ITに対する前提認識の違いとして表れます。 こうした違いの中で、デジタルツールに慣れている社員は操作を直感的に理解する一方で、慣れていない社員は、手順や意味を確認しながら進めます。
この違いが共有されていない場合、「なぜそんなところで止まるのか」という苛立ちが生まれます。さらに、業務効率を重視する職場ほど、説明やフォローが省略されやすくなります。その結果、本人は指導のつもりで行った言動が、相手には「否定」や「圧力」として伝わる構造が生まれます。
操作を覚えるプロセスが異なるため、同じ説明でも理解の進み方に差が生じます。 この差を認識しないまま進めると、「理解が遅い」という評価につながりやすくなります。
業務で使用する以上、「できることが前提」として話が進みます。 この前提に追いついていない社員は、質問しづらくなり、結果として習得が遅れます。スキル格差が、単なる能力差ではなく心理的なハードルとして働き、質問や相談を控える要因になります。
効率化やDX推進は企業にとって必要な取り組みです。 しかし、「正しい取り組みだから受け入れるべき」という前提で伝えると、相手の理解度や状況への配慮が十分に考慮されにくくなります。 このとき、「正論」であること自体が言動の正当化に使われ、結果としてハラスメントの自覚が生まれにくくなります。これは、現代の職場においてテクハラが存在しやすい大きな要因です。
ITスキルは業務遂行能力の一部として見られやすく、評価や周囲からの印象に影響しやすいため、苦手意識を持つ社員や不慣れな社員は、「できないのは自分が劣っているから」「能力が低いから使いこなせない」と責任を感じやすい領域です。 そのため、違和感があっても声を上げづらく、問題が表面化しにくくなります。この構造が、テクハラが見えないまま長期化する原因となり得ます。
職場では、次のような言動がテクハラとして問題化しやすくなります。
《現場で起きている言動と影響》
| 言動 | 現場で起きること | 結果 |
|---|---|---|
| 公開の場での否定 | 発言・質問を避けるようになる | 情報共有の質が低下し、属人化が進む |
| 説明不足のまま運用 | 自己流の対応が増える | ミスや手戻りが増え、生産性が低下 |
| 支援がなく放置される | 学習機会が失われ、自信を喪失 | 孤立・離職リスクが高まる |
テクハラが繰り返される職場には、共通した特徴があります。これらは個人の資質ではなく、組織の設計や運用に起因するものです。
ITツールの導入が先行し、教育やフォロー体制が十分に整備されていない場合、習得は個人任せになります。 その結果、習得スピードの差が埋まらないまま業務が進み、スキル差は「埋められない前提」として扱われるようになります。やがて「できる人」と「できない人」という区分が固定化し、職場の前提として定着していきます。
教える行為が業務として位置づけられていない職場では、支援は後回しになりやすくなります。教える側にとっては負担が増える一方で評価に反映されないため、優先順位が下がります。 その結果、「自分で対応した方が早い」という判断が積み重なり、説明やフォローが省略されやすくなります。 こうした環境では、「できない人」への態度や言動が厳しくなり、テクハラにつながるリスクが高まります。
テクハラは、「業務上必要な指導」「効率化のため」といった理由で行われることが多く、受け手側も違和感を自分の問題として受け止めやすい傾向があります。 そのため、「言い方がきつい」「十分な説明がされない」と感じても指摘されにくく、現場内で共有されません。さらに、人事や管理職が実態を把握できていない場合、同様の言動が繰り返されます。
こうした状態では問題が可視化されず、テクハラは個別の出来事として処理されたまま、是正されることなく職場に定着していきます。
テクハラは、一見すると個人間のコミュニケーションの問題に見えますが、放置すると現場の行動や関係性に変化が生じ、やがて組織全体に影響が広がります。特に問題なのは、「萎縮」「分断」「固定化」という形で、目に見えにくいまま進行していく点です。
テクハラが繰り返される環境では、ITに不慣れな社員の行動が変化します。
たとえば、操作方法を尋ねた際に否定的な反応を受けた経験があると、その後は質問すること自体をためらうようになります。その結果、分からない状態のまま業務を進めることになり、ミスや手戻りが増えていきます。 そして、「また同じような反応をされるのではないか」という不安から、新しいツールや機能に触れること自体を避けるようになり、IT活用が進まなくなります。
本来は業務効率化のために導入したツールが活用されなくなり、結果として現場の負担を増やす要因となるケースも少なくありません。こうした萎縮は、組織全体の生産性低下へと波及していきます。
テクハラが放置されている環境では、スキルの違いが単なる能力差にとどまらず、世代やスキルレベルの違いを軸とした分断へと発展します。
ITに慣れている側は、「なぜ、こんな基本的なことができないのか」「教えても覚えてくれない」と感じやすくなり、慣れていない側は、「聞きづらい」「どうせ理解してもらえない」と感じて距離を取るようになります。 この認識のズレが積み重なることで、互いに歩み寄る意識が薄れていきます。
こうした状態は、情報共有の質が低下や意思決定の偏りを招きます。
本来であれば多様な視点をもとに議論すべき場面でも、一部の意見だけで進行してしまうため、判断の精度が下がります。 また、ITに不慣れな社員は自身の役割が限定されていると感じやすく、主体的な関与を控えるようになり、チーム全体のパフォーマンスが低下していきます。
さらに深刻なのは、「教える側」と「教わる側」という構図が固定されることです。教える側は負担感を抱え、教わる側は遠慮や諦めを感じるようになります。 この状態が続くと、双方に不満が蓄積し、コミュニケーションの質が低下します。やがて、「あの人には聞きづらい」「あの人は非協力的だ」といったレッテルが貼られ、関係修復が難しくなります。
本来、IT活用は組織全体で進めるべき取り組みです。しかし、テクハラがある環境では、それが個人の能力問題に矮小化され、チームとしての協働が機能しなくなります。世代やスキルの違いを補完し合う関係を築かなければ、DXは形だけのものになり、現場に定着しません。
テクハラの厄介な点は、明確なトラブルとして表面化しにくいことです。 強い言葉や露骨な攻撃ではないため、周囲も問題として認識しにくく、「よくあるやり取り」として見過ごされがちです。
しかし、その積み重ねによって、職場には「分からないことは聞きにくい(自分で解決すべき)」「できない人は評価されない」「効率のためには、強い言い方も仕方がない」という暗黙のルールが形成されます。
このような状態では、誰も違和感を指摘できなくなり、ハラスメントにあたるような言動が“組織の文化”として定着してしまいます。一度この状態に陥ると改善には時間とコストがかかるため、早期の是正が不可欠です。
テクハラ対策で重要なのは、個々の善意や判断に依存せず、仕組みとして防ぐことです。人事が主導して、共通ルール・教育機会・評価基準を整備することで、現場や管理職の迷いを減らし、行動を変える土台をつくる必要があります。
▼「できて当然」という前提を見直し、共通ルールをつくる
「分からないことは聞いてよい」「教えることは業務の一部」といった前提を、暗黙の了解ではなく明文化します。これにより、質問する側・教える側の双方の心理的ハードルを下げます。
▼スキルレベルに応じたIT教育の機会を設計する
世代別ではなく、従業員の習熟度に応じた教育機会を整備することで、格差を縮める効果が期待できます。
▼「正論も人を萎縮させる」ことを前提にマネジメントを見直す
テクハラは、「正しいことを言っている」「必要なことを教えている」という認識のもとで発生しやすいという特徴があります。そのため、結果や効率だけでなく、伝え方や関わり方も評価対象に含める必要があります。 特に、「効率化のため」「業務上必要だから」といった正論が、相手への配慮を欠いた言動につながっていないかを意識させることが重要です。
テクハラの難しさは、「起きていても表に出にくい」点にあります。現場の感覚だけに頼ると、実態を正確に把握することはできません。 そのため、人事としては、定期的に実態を把握する仕組みを持つことが重要です。
アスマークの「CHeck」は、ハラスメントの被害の実態把握からハラスメントの理解度を可視化することが可能です。組織の状態に合わせた研修プランニングもできるため、ハラスメント対策をトータルで支援します。現場の状況を可視化しながら、理解促進までつなげることができます。個別フィードバックにより、受講者が自分の言動を見直すきっかけを得られる点も特徴です。
▼実態把握のポイント
「CHeck」で得られた調査結果をもとに、組織の課題に沿った研修を実施することで、現場に即した改善につなげることができます。
テクハラは、ITスキルの差そのものではなく、その差に対する関わり方から生まれます。
現場では、「指導のつもり」が相手の行動を止めてしまう場面が少なくありません。人事としては、ルール・教育・評価の仕組みを通じて、「教えることが当たり前」とされる環境、そして「教え損」にならない環境を整えることが求められます。
特に重要なのは、問題を個人の能力に帰さず、組織の設計として見直す視点です。まずは自社の現場において、「分からないと言える環境があるか」「教える行為が評価されているか」を見直してみてはいかがでしょうか。
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株式会社アスマーク マーケティング・CSチーム運営
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大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000018991.html
監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)
株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。従業員満足度調査「ASQ」のサービス立ち上げに参画し、業界比較分析も起案。人材コンサル会社と協力し「やりっぱなしで終わらせず、改善できるES調査」の開発を主導。
本記事の監修にあたって: 自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

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