就活ハラスメント(就ハラ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。威圧的な面接をされる、内定を辞退をするときに怒鳴られるなどのシーンを思い浮かべた方もいるかもしれません。近年、就ハラ対策が問題となっており、企業は対策の強化を求められています。令和における就ハラとはどのようなものか、なぜ起こるのかこのコラムで解説します。就ハラ対策の一助になれば幸いです。
代表理事 金井 絵理
就活ハラスメント(就ハラ)とは「就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントのこと(*1)」です。
就ハラを行ってしまうと、様々な影響が生じます。
例えば採用活動においては、学生の入社意欲を下げ、選考辞退や内定辞退になる可能性が高まります。また、行為が悪質なものであれば口コミやSNSなどで学生の間に情報が広がり、就職情報を取り扱う企業や、採用競合他社、学校関係者などを含めた採用市場にも悪評が広がります。そうなると、当該年度に限らず数年間は採用活動が困難なものになるでしょう。
*1 参考:厚生労働省 あかるい職場応援団 就活ハラスメント
令和の現在において、どのような就ハラが起きているか、具体例を紹介します。
起きやすいものとしては、圧迫面接やオワハラ、就活セクハラなどがあります。
学生の発言を否定したり、回答について反応をしなかったり、相手を知ろうとする深掘り質問の範囲を「超えて」尋問のように質問を繰り返す行為です。
ストレスがかかる場面において上手に切り返しが出来るか、相手からの嫌な質問や威圧的な態度に笑顔でこたえられるかなどを確かめるために、あえて行うという企業もあります。ただし、企業と学生が互いに理解する場である面接において、不要なストレスをかける圧迫面接はハラスメントに該当すると言えます。
人材を計画どおりに、早く確保したいという企業の思惑からくる「就活終われハラスメント」の略称です。
内定を出すことを条件に、他社の選考辞退や内定辞退を強要することや、他社の選考期間に被るように自社の内定者研修などイベントを被せて拘束をし、他社を受けにくくすることなどが当たります。
学生が就活に納得いくまで挑戦することを阻害する行為と言えます。
社外で発生するケースも多く、悪質な事案も見受けられます。
厚生労働省の「令和2 年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(*2)では、就活セクハラは4人に1人が受けているという結果が出ています。男性・女性がほぼ同じ割合で受けていることが調査結果から分かりました。
最も多いのは性的な冗談やからかい(40.4%)です。次いで、食事やデートへの執拗な誘い(27.5%)が多く起きています。また、行為者として最も多いのは、インターンシップで知り合った従業員(32.9%)です。採用面接担当者(25.5%)や企業説明会の担当者(24.7%)、大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員(17.6%)が続きます。
*2 参考:厚生労働省 令和2年度年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書
現在は価値観が多様になってきており、それを尊重する時代になってきています。ただし、面接官側が多様性に対応できないことにより起こるハラスメントがあります。また、コロナ流行によりオンライン面接に切り替わり、オンラインならではのハラスメントも起こっています。
一例ですが、近年では男性用のメイク用品が有名メーカーからもどんどん販売されており、男性がメイクをすることは珍しくありません。身だしなみの一環としてメイクをしている男子学生に「あれ、男性なのにお化粧されているんですか?」と聞くことはハラスメントに当たる可能性があります。
また、オンライン面接で「お部屋の雰囲気を見せてください」「立ち上がって全身が映るようにしてください」ということも選考には不要なことであり、ハラスメントに当たる可能性があります。
就ハラが起こる背景を、学生側の要因と行為者側の要因の2つから考えてみましょう。
学生側の要因としては「焦り」が挙げられます。「第一志望の企業に入りたい」「大手企業に入りたい」「無事に就活を終えたい」などの想いから「自分が我慢すればよい」という発想になり、就ハラを受けてしまっている可能性があります。
焦りの原因の1つには、コロナの流行により「学生時代に力を入れてきたこと(ガクチカ)」のエピソードが乏しいことが考えられます。留学、アルバイト、長期インターンシップなどガクチカの定番と言われていたことが行いにくい状態にあって、自分をうまくアピールできずに内定が取れない学生も少なくありません。
次に、行為者側の要因です。面接官など選考に関わる立場の人は、自分の判断で相手の合否を決められるという全能感を持ってしまうことが挙げられます。インターンシップの受け入れ先である現場の従業員や選考に関わらないOBOGも、学生が入りたい業界・企業の一員であるという立場に優越感を持ってしまい多少言いすぎても良いだろうという感覚になってしまうことがあります。それから、そもそも就ハラが何か理解をしていないことも行為に至る要因です。
就職活動中の学生をハラスメントから守り、より安心して学生が就職活動に取り組める環境を整備するため、厚生労働省では2022年から「就職活動中の学生等に対するハラスメント防止対策」を強化しました(*3)。
様々な就ハラ対策や啓蒙活動により、学生が自分自身を守る方法を知る機会が増えています。
もちろん、学生が自衛すれば良い、と言うことではありません。企業はそもそも就ハラが起こらないように対策を行う必要があります。
*3 参考:厚生労働省 就職活動中の学生等に対するハラスメント防止対策を強化します!~就職活動中の学生等をセクシュアルハラスメントから守ります~
就ハラが起こらないように、企業が行う防止案を3つ紹介します。
まずは、現在行っている自社の「ハラスメント対策研修」において、従業員だけではなく、自社を受ける学生やインターンシップの学生を含めた学生にもパワハラやセクハラを行わないように伝えましょう。それから、一部の管理職だけでなく、一般社員から役員まで含めた全員が受講できる体制にしましょう。
先述したように、就ハラは採用面接担当者や説明会担当者だけでなく、インターンシップを受け入れる現場の社員や、伝手で紹介された従業員も行為者として高い割合となっています。
できれば全員が研修を受講すること、全員の受講が難しい場合は、教材などを活用して周知を徹底することです。
次に、採用市場の理解です。特に面接官に必要な内容です。コロナなど、世界規模の非常事態があると採用市場にも何等かの影響があります。採用状況の理解があれば、先述したように行動制限により「ガクチカ」がない学生に対して「どうして何もしてこなかったの」「バイトとか、部活とか何かあるでしょう」と深掘りするよりも、他の観点で質問し、学生の良さを見出せるかもしれません。それから自社が学生に断られる立場にあることも理解しておくことが必要です。採用担当者が収集した採用動向資料から、採用環境や求人倍率、職種による採用難易度などを面接官にも共有し、学生の立場・自社の立場を客観的に理解することも大切な過程となるでしょう。
最後に考え方のアップデートです。最後は漠然とした内容となってしまいますが、自分の考え方や価値観、コミュニケーションの取り方が絶対に正しいと思わず、自分よりも若い世代と理解をし合える会話が成り立っているか見直すことです。「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という考えが強くあると、言動にも表れる可能性があります。面接のアイスブレイクのつもりであっても、家族のことや、出身地など個人的なことを聞くのもいけません(*4)。自分より若いから・目下の人だからと、ため口で話すことも学生からすると馴れ馴れしく感じたり、怖いと感じることもあるでしょう。自分がされたらどう思うかというより、相手の立場において考えたときに、好ましいか好ましくないかを意識することが大切です。一人では気づきにくい観点でもあるので、面接官トレーニングなどの研修に参加してみることも良いでしょう。
*4 参考:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 就職差別につながるおそれがある14事項
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