マイクロシフティングとは?新たな“時間設計型”の働き方と管理のポイント

はじめに:働き方改革の次に注目される「マイクロシフティング」とは

働き方改革関連法の施行やリモートワークの普及を背景に、多くの企業で働き方の見直しが進められてきました。一方で、人事・総務・経営部門の中には、「制度は整えたが、現場では想定どおりに機能していない」「柔軟な働き方を認めた結果、かえって管理が煩雑になった」といった課題意識を持っている方も多いのではないでしょうか。
こうした状況のなか、ワークスタイルに関する新しい考え方として一部で注目され始めているのが、「マイクロシフティング」という概念です。これは、特定の制度名やモデルを指すものではなく、「働く“時間”や“場所”の設計を、より細かな単位で捉える発想」を表す言葉として使われます。
本記事では、人事・総務・経営企画部門が検討するうえで押さえておきたい、マイクロシフティングの基本的な概念と、実務で向き合うべき管理上のポイントを整理します。

マイクロシフティングとは?従来の働き方改革との違い

まずは、マイクロシフティングがどのような考え方なのかを整理します。従来の働き方改革と比較することで特徴がより明確になり、自社に合った現実的な取り入れ方を検討しやすくなります。

マイクロシフティングの基本概念

マイクロシフティングとは、勤務時間や働く場所を連続した一単位として扱うのではなく、より細かく分解し、日々の業務や状況に応じて行動を「小さく」「柔軟に」調整していく考え方です。

その捉え方や柔軟度には幅があり、例えば以下のような働き方のパターンが考えられます。

  • 午前中は在宅で資料作成、午後は出社して打ち合わせを行う
  • 集中したい作業は自宅で進め、協働が必要な業務はオフィスで行う
  • 勤務を一時中断し、育児や私用を挟み、また仕事を再開する(1日の中で断続的に勤務)

後者になるほど、勤務時間は細かく、断続的になります。業務内容や日々の状況に応じて、従業員自身が「いつ・どこで・どのように働くか」を主体的に設計する要素が強くなるといえます。
マイクロシフティングは、これらのどれか一つを指す固定的な概念ではありません。企業や組織、業務特性に応じて限定的に取り入れるケースもあれば、より踏み込んだ形で実装するケースもあります。
いずれにしても、個人の裁量に任せきりにせず、「柔軟に動くことを前提にした運用ルール」を設計し、その中で各自が働き方を調整できるようにすると混乱を防げるでしょう。

働き方改革・ジョブ型雇用との位置づけ

従来の働き方改革は、法改正や制度整備を起点に、「長時間労働の改善」や「テレワークの導入」といった「枠組みづくり」としてのアプローチが中心でした。一方で、制度を整えること自体が目的化してしまい、現場での具体的な運用や、日々の業務レベルで「どのように働くか」までは最適化できていないケースも少なくありません。
また、職務や役割を明確にする「ジョブ型雇用」は、評価の透明性を高めますが、「勤務時間の設計」や「日々の働き方をどう調整すべきか」という運用指針までは示しきれない側面があります。
「マイクロシフティング」は、こうした制度や雇用形態を否定するものではなく、既存の枠組みを前提としながらも、日常の働き方をより柔軟に運用させるための視点として位置づけられます。

柔軟な働き方の広がりと管理上の課題

現在の働き方のトレンドを踏まえると、マイクロシフティングの必要性についてより明確に考えやすくなります。
テレワークやハイブリッドワークを導入する企業が増え、働く場所や時間の選択肢は多様になりました。マイクロシフティングの考え方を取り入れることで従業員はさらに自分のライフスタイルに合わせた働き方が設計できるようになりますが、一方で、柔軟性が生み出す課題とも向き合わなくてはなりません。詳しく見ていきましょう。

テレワーク・ハイブリッドワークの定着

コロナ禍をきっかけに急速に普及したテレワークは、現在では多くの企業で一定程度定着した働き方となっています。
“出社回帰”の高まりで完全出社に戻す企業もある一方で、出社と在宅を組み合わせたハイブリッドワークを継続している企業も少なくありません。今もなお、各社が自社にとって最適な働き方を模索している最中といえるでしょう。
こうした環境では、従業員の働く場所や時間が日によって変わることが前提となります。結果として、「同じ人が、同じ時間に、同じ場所で働くこと」を前提としてきた従来の勤怠管理やオフィス運用が、現実と合わなくなりつつあるのです。

「柔軟な働き方」が生んだ新たな管理課題とは

テレワークやハイブリッドワークの登場により、働く場所や時間の選択肢は広がりました。
しかし、柔軟な働き方は従業員の満足度やエンゲージメントを高める一方で、管理部門にとっては、従来とは異なる管理上の課題が浮き彫りになっています。
代表的なのが、在席状況や稼働状況が把握しづらくなることです。
「在席状況がわからず連携が滞る」「相談したい相手が不在で業務が止まる」といった、コミュニケーション上の課題によって、連携や意思決定が滞る場面も少なくありません。こうした問題は、個々の事象は些細であっても、積み重なると組織運営全体にも影響を及ぼします。
また、管理側の対応も難しくなります。状況が見えない不安から管理を強めれば、従業員にとっては“監視”と捉えられかねません。一方で、現場の裁量に委ねすぎると統制が効かないリスクが生じます。
このジレンマの中で、報告や確認のルールを増やす対応が取られることもありますが、ルールの追加は現場の負担を重くし、根本的な解決につながるとは限りません。

柔軟な働き方が広がるほど、従来の管理や運用方法では通用しづらくなるという問題があるのです。

マイクロシフティング導入時の課題

マイクロシフティングを前提とした働き方では、従業員の勤務形態が日によって変わることが想定されます。この変化は、在席確認や勤務管理など、管理部門にこれまで以上の対応を求めます。

人事・総務部門においても、勤務実態が見えにくくなることで、「適切に管理できているのか」という不安が生じやすくなります。その結果、個別確認や例外対応が増え、業務が属人化してしまうケースも少なくありません。

これらの問題は、管理が不十分だから起きているわけではありません。働き方の前提が変化する一方で、管理の考え方や仕組みが従来の延長にとどまっていることが根本的な原因です。

勤務管理・在席把握の複雑化

多くの企業では、就業規則や制度の上では柔軟な働き方を認めています。しかし、制度が存在することと、それが現場で無理なく使われていることは、必ずしも一致しません。

判断基準や運用ルールが十分に共有されていない場合、現場では判断に迷いが生じ、部署や上司ごとに運用がばらつきます。その結果、柔軟な働き方が一部の従業員しか活用できず、不公平感や不満が生じることもあります。

また、トラブルが発生した際に、どのルールを基準に判断すべきかが分からず、人事・総務部門の調整負担が増すことにもつながります。勤務管理や在席把握の複雑化は、制度と運用のずれが顕在化した結果として捉える必要があります。

 

マイクロシフティングで起こりやすい課題と対応の方向性

よくある課題 現場で起きがちなこと 求められる対応
在席状況が把握できない 誰がどこで勤務しているのかわからず、連絡や確認に時間がかかる 勤務状況の可視化
勤務管理の煩雑化 例外対応や個別確認が増え、人事・総務の負担が増加 シンプルな運用
制度が形骸化する 柔軟な働き方が定着しない 運用前提の設計

マイクロシフティングを支える仕組みづくりのポイント

マイクロシフティングを定着させるには、制度以上に「仕組みが現場で機能するかどうか」が重要になります。
人事・総務部門には、管理のしやすさと現場の使いやすさを両立させる視点が欠かせません。

どちらか一方に偏れば、管理負荷の増大や形骸化を招きかねません。バランスの取れた運用設計が求められます。

「誰が・どこで・何をしているか」の可視化

働く場所や時間が分散する環境では、単なる出欠管理だけでなく、「誰が・どこで・何をしているか」を過不足なく可視化する必要があります。

ポイントは、情報の粒度を「業務が円滑に進むレベル」に留めることです。過剰な報告は現場の負担となり、不足すれば個別確認の手間が増えます。可視化の目的は管理強化ではなく、適切な連携を可能にし、組織全体の働きやすさを向上させることにあります。

現場に負担をかけない運用設計

仕組みを定着させる最大のポイントは、現場の手間を最小限に抑えることです。入力や更新が煩雑になると、運用が形骸化し、属人的な対応に逆戻りしてしまいます。

運用設計では、日常業務フローを妨げないことを前提に、追加の手間が最小限になるように環境を整える必要があります。管理のために手続きや確認作業を増やすのではなく、現場の業務の中で無理なく回る形に落とし込めてこそ、仕組みは定着していきます。

小さく始めて、運用しながら調整する

はじめから完璧な仕組みを目指すと、設計が複雑化し、導入のハードルが上がります。まずは最低限必要な情報の可視化から始め、無理のない運用を優先しましょう。

現場の反応を見ながら段階的に調整していくプロセス自体が、マイクロシフティングの考え方と親和性の高い進め方です。働き方と同様に、仕組みも運用の中で柔軟にアップデートしていく姿勢が成功への近道です。

マイクロシフティングの管理と「せきなび」の活用

マイクロシフティングを進めるには、柔軟な働き方を前提とした「無理のない管理の仕組み」が欠かせません。最後に、その具体的な選択肢として「せきなび」をご紹介します。
▼在席管理・フリーアドレス管理ツール「せきなび」との親和性
アスマークの「せきなび」は、誰がどこで何をしているかをひと目で把握できるオンライン在席管理ツールです。出社・テレワーク・フリーアドレスが混在する環境でも、従業員の所在や状況をいつでも可視化できるため、業務上のコミュニケーションが取りやすくなり、人事・総務部門の業務負担も軽減します。

 

マイクロシフティングの幅は広く、既存の制度を大きく変えることなく運用面で少しずつ取り入れていく方法もありますが、制度の見直しや新たな設計が必要となる場合もあります。
自社にマイクロシフティングのニーズがどの程度あるのか、どういった働き方を望んでいるのかを従業員サーベイなどで把握し、無理のない範囲で段階的に取り入れていくのもよいでしょう。
まずは「せきなび」で、「誰が・どこで・どのように働いているか」を見える化するところから始めてみてはいかがでしょうか。
時代に沿った改革・改善の積み重ねが、より柔軟で働きやすい組織づくりにつながり、成長を後押ししてくれるはずです。

執筆者

Humap編集局 株式会社アスマーク 営業部 Humap事業G
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