タレントモビリティとは?人的資本経営を支える社内人材の最適配置

はじめに:社内人材活用を経営戦略に結びつける時代へ

この記事をご覧になっている方は、社内異動の活性化や人的資本経営の実現に向けて、タレントマネジメントのあり方を見直したいと考えているのではないでしょうか。

採用難、定着率の低下、組織の硬直化といった課題が顕在化する中、「社内の人材をどう活かすか」は、多くの企業にとって避けて通れない重要なテーマとなっています。

ここでは、タレントモビリティの基本的な考え方に加え、戦略的な人材配置を実現するための視点や具体策について解説します。

人的資本経営が求めるタレントマネジメントとは

人的資本経営が注目される中で、単なる人員配置ではなく、「個の力をいかに引き出し、どう活かすか」が問われています。タレントマネジメントは、その中心を担う仕組みといえるでしょう。

人的資本の見える化と企業価値への影響

人材の価値は、「人数」ではなく、「どのようなスキルを持ち、どう活躍できるか」へとシフトしています。

人的資本の見える化がもたらす効果:

  • スキルや志向性の把握により、配置の根拠が明確になる
  • 社員のモチベーション維持や離職防止につながる
  • 投資対象としての「企業価値向上」に直結する

可視化すべき要素と活用シーンの例:

  • スキル・経験:部門間異動やプロジェクト配置
  • 価値観・志向:キャリア面談、育成方針設計

自社にある人的資産の活かし方

新規採用に注力する前に、まずは「今いる人材をどのように動かすか」を考えることが重要です。

取り組みのポイント:

  • 社内のスキルや適性を体系的に管理する仕組みの整備
  • ジョブディスクリプションと社員データのひも付け
  • キャリア支援と人材配置の連動設計

人的資本経営を機能させるには、「配置戦略の高度化」が不可欠です。

 

タレントモビリティとは?注目される背景とメリット

タレントモビリティとは、社員が社内で柔軟に異動・活躍できる状態を指し、人的資本経営を実践する上で欠かせない概念です。

社内異動を「偶発」から「戦略」へ

従来の異動は、上層部の意向や人手不足対応に左右されがちでした。しかし今求められているのは、個人の強みや志向を活かした「戦略的配置」です。

タレントモビリティが注目される背景:

  • 採用難により「今いる人材」の活用が必須となった
  • キャリア自律やリスキリングを促す流れが強まった
  • 部門間の壁を越えたイノベーション創出の必要性が高まった

企業・従業員それぞれのメリット

タレントモビリティを推進することは、組織と個人の双方に恩恵をもたらします。

  • 企業のメリット:採用コスト削減、配置最適化、組織の柔軟性向上
  • 従業員のメリット:キャリアの幅が広がる、成長機会の増加、モチベーションの向上

単なる異動制度ではなく、人と組織の可能性を広げる仕組み――それがタレントモビリティです。

社内異動戦略を成功させる3つの視点

タレントモビリティを実効性のあるものにするには、「仕組み」「納得感」「文化づくり」の3つが欠かせません。ここではその具体的なポイントを整理します。

①人材データの統合と可視化

分散しがちな人材情報を統合・可視化することで、配置判断の精度が高まります。

整備すべき主なデータ:

  • スキル・保有資格
  • キャリア志向・価値観
  • 過去の異動歴・成果実績

活用ツールと目的:

  • タレントマネジメントシステム:異動候補の抽出やスキルマッチング
  • 社員サーベイ+面談情報:意向把握やモチベーション管理

②異動の納得感をどうつくるか

異動に伴う不満を防ぐには、「自ら選んだ」という感覚が重要です。

 

導入が進む仕組みの例:

  • 社内公募制度
  • 希望申告制度(年1回のキャリア申告)
  • 異動前後の面談による期待値調整

 

③現場の協力と文化づくり

制度を整えても、現場が受け入れなければ形骸化してしまいます。

文化づくりのポイント:

  • 上司が「送り出す文化」を持つこと
  • 部門間で「人を育て循環させる」という意識を共有すること
  • 評価制度に「育成・協力」の観点を取り入れること

タレントモビリティの実践事例に学ぶ

タレントモビリティに実際に取り組む企業では、社内公募や副業制度などを活用し、社員の自律的な成長と組織の柔軟性を高めています。

社内公募制度の成功事例

社員が自ら手を挙げて異動先を選べる「社内公募制度」は、多くの企業で成果を上げています。

導入企業の例:

・富士通株式会社:社内公募制度を2020年度に本格導入し、3年間で7,200人が実際に異動。異動者に対して行ったサーベイでは、異動後にポジティブな実感を得ている社員が大多数となった。

出典:厚生労働省-多様な正社員制度の導入事例(富士通株式会社)

 

・株式会社リクルート:「キャリアウェブ制度」により、全社員が社内のポジションに応募可能。異動機会を広げることで、挑戦文化を醸成し、人材循環を促進している。

出典:株式会社リクルート |キャリアウェブ制度

 

・楽天グループ株式会社:「社内オープンポジションプログラム」を通じ、全社員が公募形式で異動に挑戦できる仕組みを導入。キャリア自律を支援し、社内での挑戦機会を拡大している。

出典:楽天グループ株式会社|キャリア開発

 

制度の仕組みと効果:

  • 自主応募+選考型:配置への納得感やモチベーションを向上
  • 異動後の定着支援:ミスマッチを防ぎ、活躍を後押し

社内副業・越境学習による人材流動化

新たな人材活用の形として、社内副業(複業)や部門を越えた学びも注目されています。

主な取り組み:

  • 複数の部署を兼任し、経験を広げる「社内複業」
  • 他部門での協働を通じて学ぶ「越境研修・留学制度」

単に人材を“動かす”のではなく、“育てる”仕組みとしても機能しています。

導入時に陥りがちな課題とその解決策

タレントモビリティは、制度を導入しただけでは機能しません。ここでは、失敗に陥りやすいポイントとその対処法を紹介します。

よくある課題

制度導入初期に多く見られるつまずき:

  • 人材データが分散し、十分に活用できない
  • 異動の基準が不明確で、不公平感が生じる
  • 現場が異動に消極的で、人材が定着しにくい

課題と発生要因:

  • 情報の活用不足:システムの未整備、連携不足
  • 納得感の欠如:異動理由や評価基準が不透明
  • 現場の抵抗:育成インセンティブや協力体制がない

成功のポイント

制度を形骸化させないためには、運用設計と社内対話が不可欠です。

成功のための実践ポイント:

  • スキル・志向データの一元化と可視化
  • 異動対象者に期待される役割の事前共有
  • 異動後のフォロー体制(面談・定着支援)の整備
  • 管理職への研修と成功事例の社内展開

形だけの制度に終わらせず、「使われる仕組み」に育てていくことが成功の鍵です。

 

 

まとめ:人材を動かすには「見える化」が出発点

タレントモビリティを推進するための第一歩は、社員一人ひとりのスキルや志向性を正確に把握することです。配置を「勘や印象」から、データに基づいた根拠ある判断に変えていくことが、人的資本経営の実現に直結します。

■タレントモビリティを機能させるために必要な可視化要素:

  • スキル・資格・経験
  • キャリア志向・価値観
  • エンゲージメント状態・働き方の意向

これらを可視化することで、配置や育成方針が明確になり、社員の納得感も高まります。

ASQで実現する人材の見える化と配置支援
当社の「ASQ(アスク)」は、組織と社員を4つのタイプに分類し、エンゲージメント状態や課題を可視化できるサービスです。

ASQの特長:

  • オフィス・リーダー・社員をタイプ別に診断し、自社の特徴や改善ポイントを把握
  • リサーチのプロと、コンサルティングのプロによる共同開発で専門的かつ多面的な分析が可能
  • 満足度や離職意向について多面的な分析が可能

 

まずは、従業員の仕事への価値観や組織の状態を把握し、「誰が、どこで、どのように活躍できるのか」を正しく把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。

執筆者

Humap編集局

株式会社アスマーク 営業部 Humap事業G

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